「巻物……入手!」

 イエーイ!と歓声を上げるいのと、拍手するチョウジ。シカマルは呆れと安堵が混じったため息をひとつ。その頭の上で、白銀もシカマルの頭をペチペチ……拍手のつもりかな。疑問に思いつつ私は、いのが差し出してきた手とハイタッチを交わした。

 “第二の試験”はサバイバルゲームだ。二種類の巻物を揃えて、森の中央に位置する塔に行く。期限は五日。使う手段は自由。ただし班員を欠くことは許されない。シンプルで自由なルールなぶん、ライバルの攻撃パターンを予測しづらい。罠や闇討ちはもちろん人質、成りすまし……すべてがあり得る。

 実際、私たちが使った手段も成りすましに近かった。気配を断って近づいて(私の結界)、巻物を持っている人を特定して(シカマルの会話分析と観察力)、その人の身体を乗っ取って巻物を回収して(いのの心転身)、混乱してる敵たちを吹っ飛ばした(チョウジの肉弾戦車)。

 作戦成功、無事に必要な巻物を入手できました。名も知らぬ、たぶん草隠れの忍さん方、尊い犠牲をありがとうございました。夜明けの太陽まぶしいんですけど、私たちの勝利を祝福してくれてるってことですよね分かります。不眠の目には光が沁みてちょっと痛いですが。

「どうする? もう塔に向かえばいいのよね?」

 太陽に負けないくらいキラキラした目で、いのが言った。満面の笑みで私に抱きついてくる。テンションが高い。とりあえず背中をポンポンしておく。白銀がシカマルの頭を踏みつけて背筋を伸ばし、視線を大木のほうへと向ける。防御用に張っていた結界が、飛んできたクナイをはじいた。いのたちに緊張が走る。

「……さすが紬の結界だな」

 褒めてるわりに無表情ってどういうことですかね。褒めてないってことですね。静かににらんでくる白い目の方を見て思った。まったく面識がない人なんですけど、いったい何の用なのか。思案する私の前に、いのが出た。「作戦その二、決行よ!」ひそひそ声で言われた。……待って作戦その二ってなに。

「やだあ―――っ! こんなところで昨年度No.1ルーキーの日向ネジ様に会えるなんてー! 私たち、ツイてるぅ!」

「サ、サインほしーなー……」

 おだてるのが作戦……? というか、シカマルの棒読み具合おもしろいな。日向さんを見てみると、まったくの無表情だった。これ失敗じゃない? いのを見ると、なにやら髪ゴムを外していた。なにゆえ。

「あたしー、前々から一度……お目にかかりたいなーなんてー」

 色仕掛け……なのかな? いのは、つやつやのキレイな髪を惜しげもなく披露して、日向さんを上目遣いで見つめる。大木の枝のうえから見下ろして、日向さんは「おまえたちには用はない」と切り捨てた。いのの頬が引き攣る。私はそっと彼女を引き寄せた。

「じゃあ失礼しますね」

「待て、紬。おまえに用がある」

 さりげなく撤退作戦、失敗。名指しされると困る。無視しづらい。「おい、イツル、知り合いかよ」「初対面だよ」「影で怒らせたりしたのか? 悪口とか」「失礼な。私は面と向かってしか悪口は言わないよ、いい子だもん」「悪口言うヤツはいい子とは言わねーよ」小声でシカマルと話してると、日向さんが木の上から飛び降りてきた。チョウジが三歩うしろに下がる。うん、下がってて。念のために白銀を貸しておく。

「灰色の髪に、空色の目……血継限界を受け継いだ紬の人間である証拠」

 こちらに向かって足を進めてきながら、勝手に話しはじめた日向さん。巻き込まないよう三人と白銀から離れつつ、日向さんとの距離を保ちつつ、とりあえず「それがなにか」と殊勝に尋ねてみる。日向さんは唐突に白眼を発動した。なにゆえ。

「完全無欠、最強無敵、白眼も敵ではないなどと謳う紬の人間が、オレには鼻持ちならない。木ノ葉最強は日向であると知らしめてやる。オレと戦え!」

「やだすごい迷惑」

 解せない。私なにもしてないよね。そういうのは私の親戚一同に向けてほしい。丁重にお断り申し上げようとした矢先、いきなり拳が飛んできた。反射で避ける。こっちの都合まるで無視とか、いまの子ってやだぁ。なんて現実逃避。身体はしっかり避けてるけど。御影さんの攻撃よりぜんぜん遅いしね。家でふつうに手も足も刀も出してくる御影さん、こういうときのために私を鍛えてくれていたんですね理解しました。

 隙を突いて取り出した棍で、日向さんの拳を受け止める。反動を利用して、うしろに跳ぶ。距離を取りたい。日向さんは、間を詰めてくるかと思いきや、その場で構え直すだけだった。

「紬にしては体術が得意なようだな。結界に頼らずにオレの柔拳をかわしきった紬の人間はおまえがはじめてだ。……だが、避けているだけではオレは倒せない」

「そもそも戦う気ないんですけど……」

 さりげなく白銀たちの様子をうかがう。ハラハラとこちらを見ている。シカマルが「援護するか?」って感じのジェスチャーをしてきたので、「まだいい」って意味をこめたジェスチャーを返しておいた。伝わるか分からないけど。さり。砂を踏む音。

 「よそ見とは」ゴッ、拳と棍が衝突。「ずいぶん」一拍遅れて、風が頬を撫でる。「余裕だな」無感情な目と見つめ合う。いまのこの流れ、三秒ほど。さすが、速い。いままで出会った同年代のなかではダントツ。繰り出される攻撃を避けながら思う。

 そろそろ面倒だから戦略的撤退を図ろう。どんな機能をつけるのがいいかなぁ。考えながら、とりあえず下地の結界を創ろうとして、失敗した。ガラスにヒビが入るような音とともに霧散した結界に、思わず瞬く。日向さんの口元が歪んで、私はとっさにチャクラを放出した。爆発音。日向さんのチャクラと私のチャクラが衝突して、相殺。その衝撃を利用して、ひとまず距離を取る。

「ギリギリ避けたか……やはりいままでの紬のヤツらとは一味ちがうな。だが、やはり紬の人間。結界の創り方は同じか」

「……なるほど。白眼で私のチャクラの流れや視線の動きを読んで、いつどこに結界が創られるか当たりをつけたと。そして、まだ充分な防御力を持っていない段階の結界にご自身のチャクラをぶつけるか何かして、破壊したと。そんな感じですか?」

 結界はチャクラによって創られる。だから、理論的に言って、チャクラの動きが分かれば、結界を創っているかどうか推測可能。あと視線。結界を形成するとき、ついつい視線を向けてしまうものなのだ。

「……フン、動揺してるわりには頭が回るな」

「予想外なときほど冷静にってやつですよ。動揺を引きずるほどの衝撃でもないし」
「!」

 日向さんの目が見開く。あの独特な目を見開かれると軽くホラーでイヤになるんですけど、それはまぁ置いておいて。日向さんは吃驚している模様。頬から血が滴ってますからね。私が結界で傷つけてやりました。ざまぁ。性格悪い? 知ってます。

「……おまえのチャクラは今、結界形成時の流れ方はしていなかったはずだ」

「でしょうね」

 日向さんが剣呑な目でにらんでくる。私はさらっと受け流した。ネタバレすると、すごい小さな結界を形成したってだけなんですけどね。チャクラの動きは結界の規模に比例する。つまり、規模がすごく小さい結界なら、チャクラの動きも目で追いづらくなるってこと。いまの場合、日向さんの頬に小さな裂傷を与えるだけだったし、日向さんも油断してた。実際はそんなすごくないから、キツくにらまないでほしい。

「! チッ……時間か」

 ふと空を見上げた日向さん。忌々しそうに舌打ちなさった。悪いのは私って言いたげな目を、わざわざ私に向け直して。そういうのやめてほしい。私は被害者です。

「……仕方ない。オレにも時間の都合がある。……本選でおまえと当たるのを楽しみにしておく」

 不穏な言葉を残して、日向さんフェードアウェイ。「……結局なにがしたかったの、あの人」「知るかよ」私の独り言に、シカマルが律儀に返事をしてきた。

巻物と因縁の二次試験
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