ついに中忍試験です。受けるか受けないかモメたりもしましたが、ちゃんと四人全員で納得したうえでの受験となりました。晴れ晴れしい。なんて考えながら、いのに続いて受験会場に足を踏み入れる。数十人もの忍たちからの視線を一斉に浴びた。ものものしい。いのがギクッと立ち止まってしまうほどに。

「……あっちのほうが空いてるね」

 努めてのんびりした声を出して、いのを追い越す。さりげなく視線をカットするように。すたすた歩いていくと、いのたちが追ってきた。

「イツル! アンタ、この視線のなかよく平気で歩いていけるわね……」

「だって、べつに視線で殺されるわけじゃないし」

「最低限の緊張感と危機感は持てよ……ったく」

「のんきに欠伸してたシカマルには言われたくないなぁ」

「しょーがねぇだろ、めんどくせーんだからよ」

「二人とも、どっちもどっちだよ」

「まったくよ。緊張してる私たちがバカみたいじゃない」

 チョウジといのに相槌を打つように、白銀が欠伸をした。

「……シカマルの欠伸がうつった」

「んなわけあるか」

 シカマルからツッコミが飛んできた。ツッコミは面倒がらないってどういうことなんだろう。意外と細かい性格なのか。

「あーっ!」

 突然いのが声を上げた。何事かと振り返れば、どうやらサスケを見つけたらしい。「ちょっと行ってくるわね!!」とはしゃいで走り去る。「サスケ君、おっそ〜い!」と甘めの声。いのがサスケに抱きついていた。

「……アレのどこらへんが緊張してんだよ」

 シカマルが半眼で呟いた。チョウジも苦笑してる。私は肩をすくめて、いのを追うべく足を向けた。シカマルとチョウジもついてくる。ある程度近づいたところで、シカマルがぼやくような声を発した。

「なんだよ。こんなめんどくせー試験、おまえらも受けんのかよ」

「んぁ? ……なんだぁ、イツルちゃんとオバカ軍団か」

「その言い方はやめろっつの! ったく、クソめんどくせー!」

 真っ先にこちらを振り返ったナルトがため息をつき、シカマルがイラッとした様子で言い返した。……私のことはバカとしてカウントしないのか。なんて考えながら、ふと顔を横に向けた。

「ひゃほ〜!! み〜っけ!! これはこれは、みなさんおそろいでぇ!!!」

「魔王様! 超ひさしぶり、会えてスゲーうれしい! 相変わらずってかますます美人! まぶしい!」

「バッ……くどいてんじゃねーよ山吹!!!」

「バカはてめーだ! ただの挨拶だっつの!」

「こ、こんにちは……」

「………」

 騒々しく登場するキバ。その後ろから出てきてなぜかキバと喧嘩になる将軍。その背後から控えめに出てくるヒナタとシノ。なんだろう、カオス。とりあえずヒナタとシノとついでに将軍には挨拶をしておいた。

「オレにはアイサツなしかよ!」

「だって喧嘩してて聞こえなさそうだったし」

 そもそもキバからは挨拶もらってないしと返すと、キバはぐっと言葉に詰まった。奥歯を噛みしめて、私をにらんでくる。……彼は私のことが気に食わないらしい。アカデミーのころから、なにかと突っかかってきたりにらんできたりする。べつに気にしないけど。放置すればいいだけの話だし。

「……それにしても、まさかイツルがいるとはな! てっきり第十班は来ないと思ってたぜ! なにせマイペース集団の集まりだからな!」

 なんか勝手にしゃべり出した。失礼なと怒ればいいのか、それとも皮肉を返してやればいいのか、反応に困る言葉。とりあえず「へぇそうなんだ」と返しておく。集団と集まりは意味がカブってるからどっちかにしたほうがいいってことは指摘しないでおこう。

 キバはなぜか固まった。ちょっと顔を赤くして、目元に力をこめて、唇をギュッと結んで、それからまた口を開く。

「気のない返事すんなよ! せっかくオレが話しかけてやってんだからよ!」

「べつに無理に話しかけてくれなくていい」

「……っ、オレがだれに話しかけようとオレの勝手だろ!」

 赤丸がクゥンと鳴いた。心配そうな顔つきでキバを見下ろしている。そんな赤丸を見てたら、キバが「どこ見てんだよ!」と怒った。自分から視線を外されたのが気に入らないらしい。こういうガキ大将タイプの人間って、ほんとめんどくさい。

「ねぇ将軍、このうるさいひと引き取って」

「魔王様、思春期男子には寛容な心で向き合ってあげるのが大切なんだぜ」

 疲れて将軍に丸投げしようとしたら、やれやれって顔をされた。なんか諭してくる感がウザい。とりあえず向こう脛を蹴り飛ばしておいた。悶絶する将軍の横に歩いてきたシノが、キバを見てため息をついた。

「キバ、女子への言葉遣いには気をつけるべきだ。今のおまえの言葉はイツルに悪印象を与えるだけだ」

「うっせぇシノ!! 黙ってろ!!」

「……オレに八つ当たりをするな。たとえイツルとの距離が縮まらずあせって、」「べつにあせってなんかねぇし!!」

「あせってんじゃん」

「黙れ山吹」

「なぜオレに対しては静かに真顔で威圧してくるんだ……」

「それは仕方がないことだ、山吹。なぜなら、イツルに大切にされているおまえに対して、キバは嫉妬しているからだ」

「えっマジか」

「バッ……妬いてなんかねぇっつの!! バカなこと言ってんじゃねーよ!!」

「キ、キバくん、落ち着いて……」

「バカなことではない。なぜなら、キバのイツルに対する言動から察するに、」「っだぁあああ――――っ!!!」

「おい、おまえらうっせぇぞ。騒いでんじゃねぇよ、めんどくせー」

「イツルにいちばん大事にされてる男子は、山吹じゃなくてボクだと思うけどなぁ」

「………」

 どうしよう、カオスすぎて理解に困る。とりあえず聞き流したけどよかったよね。子どもの口ゲンカってついていけない。私はため息をついて、ヒナタに「お手洗い行ってくる」と言い置いて部屋を出た。久しぶりに騒がしいメンバーに会って疲れた。気分転換しよう。

**

 ちょっとだけ回り道をして会場に帰ると、なにやらモメごとのようだった。ナルトたちがどこかの里の忍と対峙している。サクラのそばには、丸眼鏡の男性がいた。胃袋の中身をリバースしてるけど、なに、病人? 

「このひと大丈夫?」

「ぅおああっ?!! おま、イツル!! いきなり現れんじゃねーよ!!」

 気配を抑えて合流する。いちばん的確に答えてくれそうなシノに質問したのに、反応したのはキバだった。バッと私を振り返って叫んだおかげで、視線が私に集まる。目立つつもりはなかったのにね。私がため息をついたときだ。

「静かにしやがれ! どぐされヤロー共が!!」

 教室に大きな声が響き渡った。ボンッという音とともに煙が立ち込め、ゆっくりと晴れていく。試験官たちの登場だ。教室の空気が変わる。

 森乃イビキと名乗った男が、ナルトたちと対峙していた音忍たちに注意。それから連絡事項っぽい忠告をして、試験の説明を始めた。みんな黙って聞いていたけど、不意にナルトが叫んだ。

「ペ……ペーパーテストォオオオ?!!」

 ナルト死んだな。そんな目で、みんながナルトを見た。サスケとサクラの殺気が半端ない。そんななか白銀はのんきに欠伸をして、私の肩の上でダラける。緊張感がない相棒だ。私は苦笑をこぼした。

再見と初見の試験会場
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