「てめーっ!!  木ノ葉丸に何しやがんだってばよ!!!」

 白銀と二人での散歩中、ふと聞き覚えのある声を耳にした。ナルトが、サクラと何人か子どもを連れて、見慣れない男女一組と対峙している。

「……ケンカかな」

 相手の男は子どもの一人を掴み上げている。ナルトも何やら怒ってるみたいだ。白銀と顔を見合わせたあと、私は“瞬身”を使った。

「暴力と虐待は『ダメ絶対』って知らないの」
「っ?!!」

 男の腕から子どもを奪う。そのまま距離を取って、小さな身体を地面に降ろす。ナルトとサクラが嬉しそうに私の名前を呼ぶ。私はやぁと手を上げて挨拶した。

「……なんだ、おまえ。いきなり割って入ってきて……生意気じゃん」

 黒い男に睨みつけられた。私は白銀を一撫でして首を傾げた。ちょっとだけ攻撃させてもらおうか。試しにね。

「失礼ですけど、言葉の意味分かって使ってます? 『生意気』って『自分の立場をわきまえずに、目上の人に対して出過ぎたことをする』って意味ですけど……私、あなたが目上だとは思ってないから不適切ですよ」

「ってめー!!!」

 このひと頭が弱いな。顔を歪ませて拳を振り上げた男を見て思った。こんな粗末な挑発に乗るって……情けない。向かってくる拳を眺めて、私は溜め息をつく。男の拳が結界に阻まれて止まり、その直後、木の上から飛んできたクナイが男の足元に刺さった。

「―――よそんちの里で何やってんだ、てめぇは」

 颯爽と登場したサスケに、サクラが歓声を上げた。いのと言いサクラと言い、サスケの人気は半端ないと思う。彼の言動の一々にサクラは「カッコいい〜!!」と頬を染めている。そうなるとほかの男は気に入らないのが常だ。現に、黒い男も忌々しげにサスケを睨み上げた。

「おい、ガキ! 降りてこいよ! オレは利口ぶったガキがいちばんキライなんだよ……そこの女と言い、腹が立ってしょーがねぇ……」

「あなたが異常に短気なだけかと」

「あァ?!!」

「ちょっとイツル、煽らないでよ!」

「つまり図星ってことだよ、サクラ。あのひと、短気で単純なくせに自尊心が高いっていう面倒で迷惑なタイプの人間なんだよ」

「てめぇ聞こえてっからな?!!」

「知ってますか、悪口は聞こえるように言うものなんですよ」

「てっめええええ!!!」

 黒い男がキレて、背負っていた何かを降ろしにかかる。それを見た連れの女が「カラスまで使う気かよ……」と眉をひそめた。咎めるというより呆れている口調なので、男を止める気はないらしい。止めるのはもう一人の役目というわけですね、わかります。心中で勝手な相槌を打ちつつ、不意に発された気配のほうへと視線を向けた。

「―――カンクロウ、やめろ」

 サスケの隣に、赤髪の少年がいた。大きな瓢箪を背負っている。濃い隈で囲まれた目で黒い男を見下ろして「里の面汚しめ……」と呟く。とても静かな声音だった。

「が……我愛羅……」

 男女の顔色が悪くなった。少年を見上げる目が微かに怯えを孕んでいる。場の雰囲気を一瞬で変えた少年は、男の言い訳を撥ねつけて「殺すぞ」発言をかます。それに対して従順に謝る男女。静かに彼らを観察していると、少年がこちらを向いた。

「君たち、悪かったな」

 そう言って地面に降りてくる少年は、意外と礼儀正しいようだ。感心して見ているとバッチリ目が合った。……隈すごいな。目を丸くする私とは対照的に、少年は目を細めて、連れを振り返って一言二言交わす。

 そのまま静かに去ろうとする三人に、サクラが鋭く「ちょっと待って!」と叫んだ。相手方はうんざりとゆっくりと振り返る。

「なんだ」

 代表して紅一点がぶっきらぼうに言った。サクラは臆すことなくキッと睨む。

「額当てから見て、あなたたち……砂隠れの忍者よね。確かに木ノ葉の同盟国ではあるけど、両国の忍の勝手な出入りは禁じられてるはず……目的を言いなさい! 場合によっては、あなたたちをこのまま行かせるわけにはいかないわ!」

「いや、素直に見送るしかないよ。れっきとした理由を持ってるだろうし」

「えっ、どういうこと?」
「イツルちゃん、なにか知ってるのかってばよ?」

 ビシッと決めるサクラをやんわりと止めると、サクラとナルトがきょとんと私を見てきた。……むしろ知らないのか君ら。拍子抜けしてしまう。参考までにサスケを見やれば、視線だけで私を促していた。私は諦めた。

「もうすぐ中忍選抜試験があるんだって」

「……中忍選抜試験?」

 ナルトが首を傾げた。不思議そうな顔をしている。あれは絶対に何も分かってない。私は溜め息をついた。同時に、砂の女が鼻を鳴らす。

「フン! 灯台下暗しとはこのことだな……ほんとうに何も知らないのか?」

 ほんとうに中忍試験のために来たらしい。カマはかけてみるものだ。内心で感動していると、砂の女は「中忍選抜試験とはな……」と説明をはじめる。ありがたい。

「砂・木ノ葉の隠れ里とそれに隣接する小国内の、中忍を志願している優秀な下忍が集められて行われる試験のことで、」「木ノ葉丸! オレも中忍試験ってのに出てみよーかな?!!」

「てめー!! わざわざ説明してやってんだから、最後まで聞けー!!!」

「砂の人たち、みんな短気すぎない?」

 話の途中で叫んだナルト、キレて怒鳴る砂の女、疑問を口にする私の図である。勝手に話し出したくせに、無視されて怒るとか……黒い男と言い、沸点が低すぎる。

 私の呟きを拾ったのか、砂の女が「うっせぇよ!!!」と私を睨む。私は無視を決め込んで、ウトウトしている白銀を撫でてやる。砂の女がまた口を開きかけたとき、サスケが木から降りて私の横に着地し、視線を三人組へと向けた。

「おい! そこのおまえ……名はなんて言う?」

「え? わ……私か?」

「違う! その隣の瓢箪だ」

 砂の女が頬を赤らめた。かと思ったら、傷ついた顔をする。サスケはもう少し気遣いというものを覚えたほうがいい。

「……砂瀑の我愛羅。おまえは?」

「うちはサスケだ」

「そうか。……そこのおまえは?」

「お、オレ? オレのことか?」

「ちがう。紬の女だ」

「?!!」

「……ハッ」

「………」

「……イツル、名乗られたら名乗り返すのが礼儀よ」

 ショックを受けるナルトをサスケが鼻で笑い、聞こえなかったフリを決め込む私にサクラがツッコミを入れた。私は諦めて「紬一流」と名乗った。

 心の中でため息をつく私の横で、ナルトが必死に自己アピールっぽいものをする。しかし赤髪の少年は「興味ない」とバッサリ切り捨てて、今度こそ去った。

「……じゃあ、私も帰る」

 一応それだけ言い置いて、私は素早くその場を去った。サクラが私を呼ぶ声なんて聞こえない。白銀が落っこちないよう腕に抱きかかえて、私は家まで駆けた。

喧嘩と無礼の通りすがり
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