せっせと任務をこなす私たち。最近では、けっこう下忍としての活動に慣れてきたと思います。内容は、胸を張って「任務」と言えるほどのものか怪しいけれど。おつかいとか簡単なアルバイトとか、そんな感じのものばかり。 そのせいか、アスマ先生以外は、みんな気が緩んでいたのだと思います。ナメきってたわけではないけど、緊張感が薄れつつあったのは事実といえるだろう。そして直面したのが、この事態である。 「おまえら下がれっ!! 一か所に固まって、できるだけ自分の身を守ってろ!!」 そう言って、アスマ先生は私たちの前に躍り出た。 いまの状況を簡単に説明します。 Cランクの任務を承った私たち第十班。隣の国へおつかいに行きました。無事に仕事を終え、チョウジの希望でちょっとだけ寄り道(買い食い)をして、そろそろ帰るかと国を出ました。 順調に帰路を進んでいた矢先に、突如現れた謎の忍たちに囲まれました。人数もそこそこで逃げるのも無理そうなので、これから適当に迎え討ちつつ、時機を見て退避しようって感じの状況です。 つまり、いま戦闘中ってこと。 「……いの、こっち」 立ちすくんでいるいのを、やや強引に引き寄せる。そしてシカマルとチョウジの間に押し込んだ。彼らの位置を確かめたあと、私は三人のまえに立って結界を張った。白銀が私の足元で身構えたのを見つつ、アスマ先生のほうへ意識を向ける。 すでに相手の何人かは先生に片づけられていた。いまも先生は三人ほどを一息に倒して、さらにかかってくる忍たちを相手していく。大人数に引けを取らないって、さすがだと思う。 「アスマ先生、大丈夫かな……」 「大丈夫だと思うよ。熊っぽいし。上忍だし。髭の熊だし」 「……熊っぽいのは、関係なくねーか?」 不安そうなチョウジに笑いかける。シカマルがぼそっと呟いた。意外と余裕そうだ。私はちょっと感嘆した。まぁパニックに陥ってるシカマルのほうこそ想像できないんだけど。 「ていうか、あいつらは何なのよ……」 「どこかの里の抜け忍だと思う。適当な利害関係で結託して、山賊もどきのことをしてるんじゃないかな」 いのの呟きに答える。憶測だけど。しゃべりながら辺りに意識を向け続ける。一応、大きな樹を背後にして構えてるけど、ひょっとすることがあるかもしれないし。 「くたばれ、ガキ!」 「……ほらやっぱり」 ブンッと振りかぶられた金属製の棒を結界でいなして、隙のできた男の腹に雷を打ち込む。雷撃を食らって、男は呆気なく気絶した。私は息をついて、持っていた棍の石突き部分を地面に突き立てた。 「イツル! 前見てっ!」 「わかってるから大丈夫」 チョウジに叫ばれるまでもない。私が口角を上げると同時、男の悲鳴が三人ぶん上がった。その余韻が消えるより早く、男たちが地面そのものによって押しつぶされる。棍を媒体に地面を操ってみたのだが、けっこう上手くいったらしい。 「……」 けど、なにか違和感を覚えて、眉を寄せる。……押しつぶした敵は、たしか二人。でも、さっき聞いた声は三人ぶん。それに気づいた途端、ざわっとイヤな予感が私の身体を駆け巡った。 「……まさか」 「そのまさかだよ、お嬢ちゃん」 振り向くと、敵集団のリーダーらしき人が私たちの前で笑っていた。いのたちが息を呑む。白銀が私のまえに出て、毛を逆立てて威嚇する。男は意に介さず余裕そうな笑みを見せた。 「助かったぜ、ガキ共。おまえらが騒いでくれたおかげで、あの男に隙ができたんだからよ」 視線を奥に流す。アスマ先生が謎の物体で樹に拘束されていた。口と胴体、それから四肢を押さえられている。とくに手がすごい。水かきの辺りから指先までを中心に、しっかりと縫い付けられている。あれでは片手の印すら組めないだろう。 先生はなんとか自由になろうともがきながら、必死に私たちを見ていた。 「……あれは、チャクラか何かで作った物質ですか? やけに弾力と硬度があるみたいですけど」 「ああ。オレのチャクラで練ったもんだ。空気に触れる時間に比例して、どんどん硬くなる。水でもぶっかけねー限り、ちょっとやそっとじゃ切れねーよ」 私の質問に答えながら、相手は距離を詰めてくる。硬直する三人を背後に庇い、私は結界を補強しつつ視線を滑らせた。敵のほとんどはアスマ先生にやられている。残っているのは、リーダーを含めて七人だ。 (……一気に片をつけるのはむずかしいな) となると、効率よく倒していかなければならない。この場合、順番が大切だ。リーダーや参謀タイプの者は、絶好のタイミングで片づける必要がある。それからアスマ先生を救出する機会も作らなくてはいけない。……面倒だ。 「……イツル。この結界ん中で、オレらは何ができる?」 シカマルが小声で聞いてきた。私はちょっと考え込む。視線は前方に向けたまま、会話を敵に聞かれないよう、結界の能力を補足しながら。 「……何もしなくていいよ」 「……は?」 ふと思いついた。上手くいくか分からないけど、やってみよう。そう決めた私の言葉に、シカマルが間抜けな声を上げる。同時に、私は結界をまた新しく形成した。 「一気にやろうか」 口元が笑んだのが分かった。たぶん、好戦的な表情になっている。と思う。自分の顔なんて、鏡でも見ない限り、分からないけど。 油断と不意の仕事後半 |