昼ご飯のあと、イルカ先生によって、班ごとに担当上忍を紹介された。第七班は飛ばされたけど。担当上忍さんが不在だったから。待ちぼうけを食わされることになったナルトたちの顔は、おもしろかった。 その次の第八班の担当者は、すごく綺麗な女性だった。でもフブキさんのほうが美人だと思う。タイプが違うから、ほんとのところはなんとも言えないんだけど。 「いいだろ? 黒髪の超絶美人だぜ? 羨ましいだろ?」 「はいはいよかったねー」 「おざなり! リアクションが超テキトーだよ魔王様!」 勝ち誇った顔をする将軍。なんで将軍が自慢げなのか分からない。黒髪の超絶美人なのは将軍じゃないよね。適当に流すと、なんか絡んでこられた。 「つーか、魔王様はどうなのさ。これからお世話になる先生の第一印象は?」 「んー……身長も体重もある、髭で煙草の熊男?」 じっと見て、とりあえず言葉にしてみる。疑問形なのは、上手く端的に言い表せないからだ。一応これが最も言い得て妙だとは思っている。なんとも言えない心情の私。しかし周りのほうが、もっと複雑そうにしていた……なんてことには、生憎と気づかなかった。 「………、これはなんだ、オレは責められてるのか?」 「? いえ。一応、私なりに褒めたつもりですけど……」 熊男さんの言葉に、ぱちくり瞬いて小首を傾げる。どうして「責められてる」と感じさせたのか分からない。だって私は、あの表現に「大らかで悠然と頼りがいありそうな強い大人の男」というニュアンスを込めた。これは褒め言葉だと思う。 「あー……。とりあえず、移動すっか」 なぜか訪れた沈黙のなか、熊男さんが呟いた。がしがしと後頭部を掻きながら。それをじっと見上げて、ふと思う。なんでみんな一様に熊男さんを見てるんだろう。私以外の全員が、揃って同情的な顔で。……なんとなく疎外感。解せない。 ** 所変わって、アカデミーの校庭。 熊男さんの指示に従って、私たちは横一列に並んで座っている。左から、シカマル、チョウジ、私と白銀、いの、という順番。そして、私とチョウジの正面に熊男さんが腰を下ろした。 「えーと、ひとまず挨拶するな。オレは猿飛アスマ。今日からお前ら第十班を担当していく上忍だ。気軽にアスマって呼んでくれ。あとは……そうだな。何か質問とか、言いたいことあるか?」 「はい、先生。とりあえず煙草がけむたいです」 「……そうか。悪いな」 ピシッと挙手をして言ってみた。なんとなく。とくに意味はない。先生はそこには触れず、ただ煙草の火を消した。私が手を降ろすのと同時に、他の三人と白銀がホッと一息つく。みんな何度か咳き込んでたから。 しかし子供の前でも煙草を吸うとか。もしかして煙草依存症の人なんだろうか……。私はじっと先生を見つめる。目が合った。先生は首を傾げる。 「ん? まだ何かあんのか?」 「先生付けずに『アスマ』と呼び捨てにしてもいいですか?って、シカマルが」 「言ってねーよ」 「思ってたでしょう?」 胡坐をかいてフェンスに寄りかかってたシカマルが、低い声で言う。私が首を傾げると、眉間に皺を寄せた。いつも寄ってるけどね。 「オレはべつに許可取らなくてもそう呼ぶっつの」 「それはそれでどうなんだよ……。べつにオレはいいけどよ」 ったく……と先生が呆れる。対応が大人だ。これがイルカ先生だったら、絶対に叱りつけていただろう。……いや。もはや達観して脱力するかもしれない。 先生はまた後頭部をがしがし掻いて、私たちを見渡した。 「じゃ、一人ずつ自己紹介してくれ。とりあえず名前と……あー、好きなもの嫌いなもの、それから、」「まだあんのかよ。めんどくせー」 「……将来の夢とか、そういう感じのこと言ってくれりゃいいからよ」 まず男子から。ということで、一番端のシカマルが指された。げっ、と嫌そうな声が上がる。当然シカマルだ。顔だけで「めんどくせー」と表現している。器用だ。 「あー……名前は奈良シカマル。好きなもんは昼寝と将棋。嫌いなもんはめんどくせーこと。将来は、テキトーに忍者やってテキトーに稼いで、フツーの人生送りてぇ」 「やっだ、シカマル、超ジジくさい」いのが呟いた。「でもシカマルらしいよね」と私。チョウジがスナック菓子を新しく封切りながら「うん。これがシカマルの通常運行だよ」と頷いてくれた。 「……じゃ、次。さっきから菓子食ってるやつ」先生に指定されて、チョウジが口の中のものを飲み込んだ。 「ボクは秋道チョウジ。好きなものは、おいしい食べ物。嫌いなものは、おいしくないものと、最後のひと口を横取りされること! 将来の目標は、おいしい食べ物をできるだけ制覇すること、かな」 「食べ物のことしか言ってないじゃない……」 「それがチョウジだよ」 うちの男どもって……とうなだれるいのに、私は笑う。チョウジから食べ物を取ったら、友情以外、何も残らないと思う。あ。優しさも残るか。 「……次、さっきからふわふわしてる子」 「ふわふわ……?」 「そこはいいから、さっさと自己紹介しなさい、イツル」 表現に首を傾げる。けど、いのに切り捨てられた。いのはテキパキしてて、誰にでも容赦がない。あのサスケにだって、ある意味では容赦がない。そんなことを考えつつ、口を開く。 「紬一流です。好きなものはいろいろ、嫌いなもの……も、ちらほらありますね。将来の夢は、誰にも内緒です」 「どんな自己紹介よ?!!」 「結局名前以外分かってねーぞ」 「まぁまぁ。イツルらしくていいじゃん」 「………」 四者四様のリアクションが返ってきた。いのが渾身のツッコミを放ち、シカマルが呆れる。ぽわーんとするチョウジに、崩れ落ちるかのように脱力する先生。それぞれの性格がよく分かる。見てておもしろい。 ついでに白銀を紹介する。先生は妙な相槌を打ったあと、深い溜め息を吐き出した。それから、ゆっくりと顔を上げて、いのを見る。 「……じゃあ最後、さっきからツッコミ入れてくれてる子」 「好きで入れてるわけじゃないんですけど……」 いのがムッとした。先生からの第一印象が不満だったみたいだ。まぁ、私も、先生の認識は間違ってると思う。だって、ほら。 「え〜っと、私は山中いの、恋する素敵な女の子です! 好きなのは可愛いものとカッコいい男の子で〜、今のターゲットはサスケ君! 嫌いなのは身だしなみが崩れることと恋のライバルかな? 将来の夢は〜、幸せなお嫁さん、とか〜? あ、もちろんサスケ君の……な〜んちゃって!」 きゃ〜!! と興奮するいの。元気だなーと眺める私と、昼寝にいそしむ白銀。チョウジは相変わらずバリバリとお菓子を頬張ってて、シカマルは空に向かって欠伸をしている。先生は、今度こそ崩れ落ちた。 (常識人がいねぇ……っ!!!) ガックリと項垂れる先生を放置して、私たちは、やいのやいの騒ぐ。 「だ〜って、恋は大事よ〜? イツルも恋すればいいのに」 「んー……私は、花より団子だからなぁ」 「もう! イツルのバカ! もったいないわね! アンタせっかく綺麗な、」「お団子っていえば、こないだおいしい店見つけたよ。イツル、今度一緒に行かない?」 「本当? チョウジがいいなら、行きたいな」 「ちょっとイツルッ! 聞いてんの?!」 「うるせぇな……ぎゃあぎゃあ騒いでんじゃねーよ。ったく、めんどくせー」 「はぁ? 乙女心をめんどくさいの一言で済ますんじゃないわよ!!」 (……オレ、この班まとめていけんのかな……) 先生が遠い目をして、溜め息混じりに煙草に火をつけた音がした。 脱力と不安の顔合わせ |