椅子に座り直して、ポテートを咀嚼。立ったまま食べるのは、ちょっと行儀が良くないから。べつに気にしないけど。立って食べてもいいんだけど。でも座ってみた。なんとなく。すぐそこに椅子があったから。 話をチョウジに戻そう。彼はよく私に食べ物をくれる。なぜかは知らないけど。たぶんチョウジの優しさだと思う。確認したことはない。他人〔ひと〕の好意は、黙って受け取っておくものだから。 「……おいしい」 「でしょ? ボクのオススメなんだ」 「そっか」 ぽわーんとした雰囲気のチョウジにつられて笑った私。しかし、ふと椅子から立ち上がった。背後から殺気じみたものを感じたから。 「そっか、じゃない!!」 間一髪。イルカ先生の怒号と共に、さっきまで私が座ってた椅子に、先生の拳が激突した。ゴッ! 痛そうな音。 「……大丈夫ですか?」 「誰のせいだと思ってる……!!」 「そうですね……。短気で、すぐ生徒に手を出す先生の自業自得だと、いたたっ」 私の米神が、イルカ先生の拳でぐりぐりと抉られる。普通に痛い。苦い顔をする私を見て、将軍がけらけら笑う。指差しつきで。普通にイラッときた私の頭上から、イルカ先生の声が降ってくる。 「だいったい! イツル! 順番がきても教室に入ってこないと思えば、おまえは何やってるんだ!!」 「んー……何でしょう? いろいろやってて、一言で『これ』と答えにくいですね」 最初は読書をしていた。回想をしながら。そのあと、いのに声をかけられて、彼女と将軍の論争と乱闘を傍観。それからヒナタに声をかけられ、チョウジに餞別なるものをもらって、和んだ。そこにイルカ先生が登場。カオスだ。 強いて言うなら「待機中の暇つぶし」と答えるのが正解だろうか。悩む私の頭上から、溜め息が落ちてきた。イルカ先生だ。 「分かった。もういい。いいから行くぞ。卒業試験だ」 「知ってますよ? いま行こうとしてたんですから」 「もっと早く来ような」 「ですから、私はちゃんと行くところでしたよ? その前にイルカ先生が痺れを切らして教室にいらっしゃっただけで」 「いや、それつまりオレたちを待たせてたってことだからな?」 「でも先生。先生は『順番に試験を受けにくること』とおっしゃっていただけで、インターバルについては言及していませんでしたよね? ということはつまり、」「やめようか魔王様。それ以上イルカ先生を追い込まないであげて」「とやかく言ってないで、早く試験受けて来なさい」 突然、将軍が私の言葉を遮った。真顔で。いのも同意する。なんでいきなり同調してるんだろう。あれだけ険悪なムードだったのに。解せない。 「山吹……いの……」 先生が二人の名前を呼んだ。噛み締めるように。あたかも感動しているように。ますます解せない。 「……なんですか。揚げ足取りの屁理屈トークが達者な問題児みたいに、私を扱って」 「自覚あんなら改めようぜ、魔王様」 「……私はただ、子供らしく茶目てるだけですー」 「自分で『子供らしく』って言ってる時点で子供らしくないからな?!!」 ぎゅっと唇を引き結んでみた。将軍からツッコミが入った。全力で。周りは、ヒナタとチョウジ以外はみんな溜め息をついていた。呆れているようだ。 「………イツル。もうなんでもいいから試験するぞ」 イルカ先生が言った。いちばん盛大に溜め息をついていた人だ。すたすた歩き出した先生に、一度瞬きをしたあと、ついていく。将軍といのの論争は聞き流す。シカマルの「お前らホントめんどくせーな」というセリフも無視した。 そして、ちゃっかり試験はパスした。一回で。しかし“変化の術”も加えたせいで怒られた。けど、イルカ先生の指示の穴を突いて言い逃れた。 いちいち可愛げがなくてごめんなさい。そう心のなかで謝っておいた。けど、たぶん問題ないと思う。なんだかんだ言って、イルカ先生はこういうキャラの生徒のほうが好きだから。たぶん。確証はない。でも確信はしてる。 だって、結局は笑ったから。仕方ないなって。大きな手を、私の頭に乗せて。 「……合格だ、イツル。よくやったな」 「……手、どけてください。髪の毛が乱れ、」「よーしよし、イツル、偉いぞー」 「やめてくださいってば!」 こんな光景を、将軍たちには見られたくない。見せてたまるか。薄っすらと赤くなっているであろう顔を、イルカ先生に見られないよう隠しながら、私はそう思った。 和気と茶目の卒業試験 |