こんな状況でも行われるという学期末試験が始まる三日前、朝食の席でマクゴナガル先生が嬉しい発表をしてくれた。マンドレイクが収穫できる ――― つまり、石になった者たちが蘇生するのだ。

 明日になれば、何もしなくともすべての謎が解けるだろう……ハリーはそう思ったが、手掛かりがあるのなら、じっとしているつもりはなかった ――― ここ数日、朝食時に、リンがハリーとロンにさりげなく、意味ありげに目配せをしてくれていたのだ。

 ハリーはリンと話をしたいと思った。そして嬉しいことに、ようやくその機会がやってきた。

 午前の授業も半ば終わり、次の「魔法史」の教室まで引率していたのが、ギルデロイ・ロックハートだった。タイミングよく廊下の反対側からハッフルパフ生が歩いてくるのを見て、ハリーはいましかないと直感した。

 そこでハリーは ――― 普段なら絶対しないのだが、ロックハートに話を合わせた。ロンが驚いて教科書を落としたが、ハリーがリンと見つめ合っているのに気づいて、ピンと来て上手く繋いだ。

 作戦は成功だった。ロックハートは足早に去っていったし、リンも上手くハッフルパフ生の列から抜け出していた。三人はお互いに駆け寄った。

「僕ら、行きたいところがあるんだ」

「奇遇だね、私もなんだ。ただ、そこって、」

「女子トイレ?」

 ロンがちょっと笑いながら聞くと、リンが頷いた。ハリーの心は弾んだ。みんな同じ考えに行き着いたのだ。

 三人は人混みから静かに抜け出して、脇の通路を駆け下り、三階の「嘆きのマートル」のトイレへと急いだ。しかし、目的地が目前となったそのとき ――― 。

「ポッター! ウィーズリー! それにヨシノ!」

 三人が振り向くと、マクゴナガル先生が、これ以上固くは結べまいというくらいに固く唇を真一文字に結んで立っていた。リンが小さく「めんどくさ……」と呟いたのを、ハリーは聞いた。

「いったい何をしているのですか?」

「あ……あの、僕たち、」

「お見舞いに行こうとしていたんです」

 モゴモゴとしたロンのセリフを受けて、リンがはっきりした口調で繋いだ。ハリーもロンも、マクゴナガル先生と同じようにリンを見つめた。

「先生……もうずいぶん長いこと、スイやジャスティンの顔を見ていません」

 リンが真剣な表情で言いながら、ハリーの足を軽く小突いてきた。ハリーはパッと閃いて、リンに続ける ――― ロンの足を踏んづけながら。

「僕たちもです。ずっとハーマイオニーに会ってません ――― あの、危険だからって、面会を許してもらえなくて」

「だから私たち、こっそり医務室に忍び込んで……みんなに、もうすぐマンドレイクが採れるから……だから、あと少しの辛抱だからって、そう言うだけでもできたらと思ったんです」

 ロンが慌てて頷いた。マクゴナガル先生はリンから目を離さなかった。ハリーは先生の雷が落ちるかと思った。しかし、口を開いた先生の声は奇妙に掠れていた。

「そうでしょうとも」

 先生の目に涙がキラリと光るのを見つけて、ハリーたちは驚いた。

「そうでしょうとも。襲われた人たちの友達が、一番辛い思いをしてきたことでしょう……よく分かりました。もちろんいいですとも。お見舞いを許可します。ビンズ先生とスネイプ先生には、私からあなた方の欠席のことをお知らせしておきましょう。マダム・ポンフリーには、私から許可が出たと言いなさい」

 三人は罰則が与えられなかったことが半信半疑のまま、とりあえず静かにその場を立ち去った。角を曲がったとき、マクゴナガル先生が鼻をかむ音が聞こえた。

「君って、最高の感動話を作るね」

 ロンが熱を込めて言うと、リンは苦笑した。ここまで上手くいくとは思っていなかったらしい。マクゴナガル先生の意外な弱点を見つけた気分だ。

「でも、どうする? こうなったら医務室に行くしかないよ」

 ロンの言葉に、リンは一瞬考えて判断を出した。

「それでいいと思うよ。あそこだったら、マダム・ポンフリーにさえ気をつけてれば、ほかの誰かに話を聞かれる心配もないし」

「ピーブズなんかが入ってきても、二秒で追い出されるだろうしね」

 ハリーが賛同したため、三人は方向転換した。


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