明け方の五時すぎ、ウィーズリー夫人が現れ、ウィーズリー氏は無事一命を取り留めたと報せた。午後になったら面会に行くという話になり、朝食を取ったあとの午前中は寝ることとなった。

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 聖マンゴ魔法疾患傷害病院に到着してすぐ、ハルヨシが一行を迎えた。千里眼か予知能力で到着時間を予測していたようだ。

「アーサーの病室に案内しよう」

「どちらに移ったの?」

「ダイ・ルウェリン病棟」

 ウィーズリー夫人の質問に淡々と答えて、ハルヨシは踵を返した。足音はないが、動きに合わせて白衣の裾がはためく。イギリスでは癒者のローブはライム色と規定で決まっているが、ハルヨシは相変わらず遵守する気がないらしい。

「……なんか、ミスター・ヨシノってなんとなく浮いてるよね?」

 ハリーが小声でささやいてきた。理由はうまく言えないけど……と渋面をする彼に、リンは「服が白いからじゃない?」と返す。ハリーが「ああ!」と表情を明るくする。

「たしかに、ほかの医者〔ドクター〕はみんなライム色だよね」

「癒者〔ヒーラー〕っていうんだよ」

 さりげなくリンが訂正すれば、きょとんとしたハリーが「どうちがうの?」と聞いてくる。リンは「んー……」と言葉を探した。

「ドクターは手術とか物理的な方法で治療するでしょう? ヒーラーは呪文とか薬とかで治す」

「ドクターにも内科とかあるけど……」

「でも魔法界の多くのひとは、ドクターは人間を切り刻む変人だと思ってるよ」

「……できるだけドクターって言葉は使わないようにするよ」

 何やら神妙な顔でハリーが言った。そこまで気を使うことはないけど。と思ったリンだったが、彼女が何か言うまえに、ハリーが話題をハルヨシへと戻す。

「ミスター・ヨシノはなんで白衣なのかな……ドクターっぽいけど」

「日本ではヒーラーの衣服は白なんだよ。清潔感が分かりやすいって理由で、マグルの文化から輸入したの」

「へー……やっぱり日本人だって主張してるんだね」

「それもあるかもだけど、試しにライム色のローブを着てみたけど似合わなかったっていうのがいちばんの理由らしいよ。叔父上いわく」

「………」

 思ったよりくだらない理由だった。ハリーは返答に困り、無言という無難な選択をする。いやたしかに似合わないだろうけど。でもそんな理由で規則破りしていいんだろうか。見た感じ、規則はしっかり守るタイプの人間に見えるのに。

 考え込んでいるあいだに、病室に着いた。最初は家族だけの面会にすべきだとトンクスが提案したので、ハリーとリンは身を引こうとしたが、ウィーズリー夫人に腕を取られ、ウィーズリー家と一緒に面会することになった。

「アーサー、具合はどう?」

「問題ないよ。ハルのおかげでね」

 ウィーズリー氏はにっこりして言った。

「蛇の牙に特殊な、どうやら傷口がふさがらないようにする毒があったようで、癒師たちがかなり苦戦していたんだがね、ハルがしっかり解毒してくれたよ。いまは経過を見るために入院しているようなものだ」

 機嫌よく言いながら、ウィーズリー氏はベッド脇から杖を取り、椅子を七脚ベッド脇に出現させた。

「相変わらず見事な腕だよ、彼は。引く手あまたなのも分かる。イギリスを就職先に選んでくれてほんとうにラッキーだった」

「そんなことより、パパ、何があったのか話してくれよ」

 フレッドが椅子ごとベッドに近寄りながら詰め寄った。ウィーズリー氏は「もう知ってるんだろう?」とハリーを一瞥する。

「居眠りをして、忍び寄られて、噛まれた。それだけだ」

 フレッドは納得いかない風情で口を開いたが、ウィーズリー氏のほうが早かった。

「ところで、リン」

「? はい」

「ビルとはすれ違わなかったのかね? 君たちが来る少しまえに帰っていったんだが」

「……いえ、会ってませんが」

 なぜ自分あてに質問されたのかまったく解せないリンだったが、礼儀正しく答える。その肩に、ジニーがくっついてきた。なぜか目をキラキラさせて父親を見ている。

「パパまでビルの話をリンに振るのね。ママもさりげなーくビルの話題をリンにするけど、もしかしてもしかして?!」

「ジニー、しっ!」

「ちょっと待ったその話詳しく」

 人差し指を口に当てて娘を見るウィーズリー夫人を見て、何やらフレッドまで身を乗り出した。いったい何事だ……。困惑するリンに、ジョージが「リンは気にするな」と苦笑を向ける。

「………」

 リンはロンへと目を向けた。チンプンカンプンな様子で、不思議そうに家族を見ている。ハリーへと視線を滑らせる。似たような表情だった。

 ため息をついて、リンは、話に区切りがつくまでぼんやりとウィーズリー一家を眺めることにした。……ところで蛇についての話題が流れたが、ジニーたちはそれでいいんだろうか。疑問に思ったが、いま指摘してもムダだろうと判断して、諦めた。


5-28.  白とライムと


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