さらに翌日の夜、リンはようやく退院を許された。とはいえ、まだ完全には魔力が回復しておらず本調子ではないため、くれぐれも授業で無理をしないように、とのことだった。

 寮に帰って一番に、泣いているハンナに抱きつかれ、ジャスティンに号泣され、ベティに涙目で罵倒され、スーザンに涙ながらに説教され、リンは吃驚のち硬直した。ちなみにアーニーは静かに感涙していた。その涙の輪に、なぜかロバートとローレンスとデイヴィッドも混ざっていて不思議だった。

「いやだっておまえ、心配したんだぞ! ものっすごく心配したんだぞ!!」

 顔から出るものすべて出すとはこのことか……そんな顔をしているロバートの言葉に、リンは少し考えて「私たち、なにか関係ありましたっけ」ととぼけてみた。途端「チームメイトだろぉおお?!!」「うっせーぞロブ」「ごふっ!!」「さすが我らがキャプテン、華麗に決めたぁあ!」「みんな、もう少し静かに……」などと騒がしくなる。静かに涙を流すデイヴィッドとの差が激しい。

 ふと笑みをこぼしたあと、リンは、いまだしがみついているハンナの背を軽く叩き、周りを見渡した。

「……心配かけてごめんなさい、ありがとう」

 そう言って笑えば、少しの間を置いて、笑顔が返ってくる。それがうれしくて、リンはまた笑みをこぼす。その様子に、スイは目を優しく細め、尻尾でポンポンとリンの背中を叩いた。

**

 あっという間に時間が過ぎ、学期末パーティーがやってきた。リンたちが大広間に入ると、ボーバトンとダームストラングを迎えた日と同じ飾りつけがなされていた。

 教職員テーブルを見ると、本物のマッド‐アイ・ムーディがいた。木製の義足も「魔法の目」も元に戻っているし、一見変わりはない。ただ、神経過敏になっていた。だれかに話しかけられるたびに飛び上がっている。十か月もトランクに幽閉され、他者に対する神経質な警戒心に拍車がかかったらしい。

 視線を移せば、空席が目にとまった。カルカロフの席だ。彼の最期が脳裏によぎり、リンは思わず空席へと軽く礼をした。気に入らない人ではあったが、彼と最後に接触した人物が自分であったというのは、なんだか不思議な気持ちになる。

 テーブルに着いて、たわいのない話をして時間を潰す。友人たちのだれも、もっと言うなら生徒のだれも、第三の課題の夜に何が起こったのか、リンに聞いてはこなかった。

 第二の課題の際に、リンに聞いてもムダだと学んだのか。そう思ったが、どうもちがうようで、スーザン曰く、ダンブルドアが課題の翌朝に諭してくれたらしい。セドリックとリンは詳しく事を知らないこと、そしてハリーの心の整理がついていないことを踏まえ、三人に何も質問しないようにと。

 それがなくとも、リンは静かに過ごせただろうなと、スイは思った。常にハンナたちがそばにいて、リンの平穏を乱す輩を排除しているのだから。

 スイが溜め息をついたとき、ダンブルドアが教職員テーブルで立ち上がった。大広間が静かになる。ダンブルドアはみんなを見回し、口を開いた。

「今年もまた、終わりがやってきた」

 静かな空気のなか、ダンブルドアは、まず三校対抗試合の結果について述べた。セドリックとハリーが同率で優勝したとのことだ。拍手が起こり、みんなでゴブレットを上げ、二人を讃えた。

「三大魔法学校対抗試合の目的は、魔法界の相互理解を深め、進めることじゃった。そのような絆はこれから、以前にも増して重要になる。なぜなら ――― 」

 ダンブルドアは一度言葉を切った。広間にいる者たちを見渡し、息を吸って、続ける。

「なぜならば、このたびヴォルデモート卿が復活したからじゃ」

 大広間に、恐怖に駆られたざわめきが走った。まさかという顔がたくさん、ダンブルドアを見つめる。それを冷静に受け止め、ダンブルドアは、場が静まるのを待った。

「魔法省は、わしがこのことを皆に話すことを望んでおらぬ。ヴォルデモート卿の復活を信じられぬから、あるいは、皆のようにまだ年端もいかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。しかし、たいていの場合、真実は嘘に勝る」

 さわさわと、小さなざわめきが起こる。そのなかで、ダンブルドアは落ち着いて話を続けていた。

「セドリック・ディゴリー、リン・ヨシノ、ハリー・ポッター……この三人は、幸運にもヴォルデモート卿の手を逃れた。とくにハリー・ポッターは、自ら勇敢にヴォルデモート卿に挑み、リンを連れ帰った」

 無数の視線がリンとハリーとに向けられる。リンは無視して、静かにダンブルドアを見つめ続けた。

「ヴォルデモート卿に対峙した魔法使いのなかで、これほどの勇気を示した者は、そう多くない。そういう勇気を、ハリー・ポッターは見せてくれた。ゆえに、わしはハリー・ポッターを讃えたい」

 ダンブルドアは厳かにハリーのほうを向き、ゴブレットを上げた。ほとんどの者が起立し、彼に続いた。杯を上げたリンの肩の上で、スイはスリザリンのテーブルを見た。

 セオドール・ノットやダフネ・グリーングラスなど、一部の生徒は起立して杯を上げている。しかし、そのほかの生徒たちは、頑なに席に着いたまま、ゴブレットに手も触れずにいた。スイは溜め息をついた。

 みんなが席に着いたあと、ダンブルドアは話を再開した。今度はあちこちへと視線を移しながら……マダム・マクシームからハグリッドへ、フラー・デラクールからボーバトンの生徒たちへ、ビクトール・クラムからダームストラング生へ……。

「われわれは結束せねばなるまい。ヴォルデモート卿は、不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。それと戦うには、同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない。目的を同じくし、心を開くならば、習慣や言葉の違いはまったく問題にならぬ」

 クラムは、どことなくビクビクしているように、リンには見えた。ダンブルドアが何か厳しいことを言うのではないかと心配しているような……。偽ムーディに服従させられ、セドリックに「磔の呪い」をかけてしまったことを気にしているのかもしれないと、リンはぼんやり思った。

「ここにいるすべての客人は、好きなときにいつでもまた、おいでくだされ。歓迎いたしますぞ。もう一度言うが ――― ヴォルデモート卿の復活に鑑みて、われわれは結束すれば強く、バラバラでは弱い」

 ようやくダームストラング生たちから視線を外し、ダンブルドアは再び広間全体を見渡した。不安そうな顔の主たちを鼓舞するように、力強く言葉を綴る。

「われわれは、暗く困難なときを迎えようとしているようじゃ……。この広間にいる者のなかにも、すでに闇の陣営の手にかかって苦しんだ者もおる。家族を引き裂かれた者も多くいる。そうした者と、その近くにいる者は、けっして誤るでないぞ。正しきことと、易きこと、どちらを選択すべきかを」

4-65. 結束せよ
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