「 ――― これ、自分たちで発明したの?」

 フレッドとジョージが見せてくれた「おもしろいもの」を手に取って、いろいろな角度から観察しながら、リンが呟いた。双子は得意そうに頷いた。

「なかなかいい出来映えだろ?」

「バリエーションも豊富だし」

 リンが手に持った「杖」を振ると、それはピヨピヨ鳴くゴム製のヒヨコになった。見事な変身術である。リンは双子の自信作「だまし杖」に感嘆した。

「すごい発想力と技術だね。プロの職人さんみたい」

 素直に褒めると、フレッドとジョージの笑顔が微妙に硬直し、耳が同時に赤くなった。返事がないことを不思議に思ったリンが顔を上げると、フレッドは顔を背けて髪をグシャグシャと掻きまわし、ジョージは片手で顔の下半分を覆い、視線を逸らしていた。

「……まずいこと言った?」

「いや、その……まさかリンが、こうもまっすぐ褒めてくれると思わなくて……」

「なんか悪く言われてる気がするんだけど」

「そうじゃないよ!」

 モゴモゴするジョージにリンが静かに言うと、ジョージは慌てて否定した。ちなみにフレッドは明後日の方向を向いて沈黙したままだ(なんとも珍しい)。

「なにせいつもの君は ――― あ、いや……要するに、俺たち、照れてるだけだ」

「あえて何もコメントしないでおくよ」

「そうしてくれると助かるよ」

 肩を竦めてみせるジョージは、ちょっと調子が戻ったらしい。フレッドもリンたちの会話に入ってきた。

「見ての通り、俺たちさ、けっこう才能あるだろ?」

「だから、この才能を生かして『悪戯専門店』を開きたいんだ」

「だいぶ前から、ずっと考えてた」

「名前だって決めてある ――― ウィーズリー・ウィザード・ウィーズさ」

 交互に双子の口から出てくる言葉を聞いて、リンは目を瞬かせた。それから、なるほどと納得する。確かにこの二人がやりたがりそうな職業だ。

「いいんじゃない?」

 リンが言うと、双子は目を見開いた。一瞬ポカンとしたあと、顔に興奮を浮かべ、同時にリンに詰め寄った。

「ほ ――― ホントにそう思うか?」

「嘘なんて言ってどうするの? それより、近い」

 片手を前に出して制止するリンを、双子は無視した。互いの顔を見合わせて「やったぜ!」とハイタッチをしている。なんでわざわざ自分の(文字通り)目の前でするんだと呆れるリンを、ジョージが振り返った。

「おふくろは認めてくれないんだ」

「俺たちに魔法省に就職しろとのたまった」

「君たちが政府に? その瞬間に魔法界は終わっちゃう気がするんだけど」

 なかなかに失礼なことをサラリと言ったリンに、双子が気分を害した ――― なんてことはない。むしろフレッドは「まったくだ」と力強く頷いた。

「俺たちの適性を考えたら分かることだろうに、おふくろはそう望むんだ」

「この間、ついに大論争を繰り広げる羽目になった」

「そのときに何やらかされたか、分かるか?」

「やらか“し”たんじゃなくて、やらか“され”たんだ」

 おもしろそうに口角を上げたリンが「で、何を?」と小さく首を傾げると、フレッドがボロい天井を仰ぐようにして、実に絶望的に聞こえる声を出した。

「おふくろの奴 ――― 俺たちの魂が注ぎ込まれた、注文書と計画表と製造方法のメモを焼き捨てやがった……!」

「悲劇だね」

「ショックで寝込むかと思ったぜ」

 床に向かって俯くジョージに、リンは「ご愁傷様」と言った。その事件に関して特に何かを言うつもりは、リンにはない。双子の気持ちも分かるが、ウィーズリー夫人の気持ちも理解できてしまうのだ。

「また作成し直すことはできないの?」

 さりげなく流してリンが聞くと、双子は顔の向きを元に戻してしかめ面をする。それだけでもう答えが予測できてしまう……リンは内心で苦笑した。

「商品の価格はなんとか思い出せたけど」

「計画表もなんとなーくは再生できたが」

「製造方法のメモはどうにもならなかったんだ」

「なにしろ、たくさん作ってきたからな」

「それもずいぶん昔からだ」

「記憶を手繰ってもあやふや」

「しかも、複数のグッズの製造法が頭ん中でいつの間にか混ざってる気がしてしょうがないんだ」

「出来上がったものを調べようにも、俺たち、技術が誰にも盗まれないように魔法をかけてるからさ」

「その天才的な工夫が、いまの俺たちにはアダとなっちまったってわけ」

「これはもう、どうしようもないだろ?」

 フレッドで始まってジョージで終わった身振り手振りを交えた長い説明を聞いて、リンはちょっと思考を巡らせた。双子が「複製もできないようにしてある」だの「燃えた灰すら捨てられた」だの喋っているのは、軽く聞き流す。

 数秒して、できなくはないかもしれないと考えに結論をつけたところで、リンはふとドアの向こうに意識を向けた。誰かが階段を上ってくる音だ ――― リンはフレッドとジョージを見た。

「誰か来るよ」

 警告に素早く反応した双子が、一瞬で(魔法でも使ったのかとリンは思った)悪戯グッズを隠した次の瞬間、ドアが開いてウィーズリー夫人が顔を出した。じろりと部屋の中を見渡した夫人は、リンを目に留めると目つきを柔らかいものにした。

「あら、リン、こんなところにいたの? ハーマイオニーも来たところだし、お茶にしようかと思ってるんだけど」

「あ、行きます」

「ええ、ぜひ来てちょうだい。――― おまえたちは、リンを連れ込んでいったい何をしていたのやら……」

「僕たち ――― 」

「ああ、二人から恋愛相談を受けてたんですよ」

 打って変わって眉を吊り上げたウィーズリー夫人に、リンがしゃあしゃあと言った。フレッドとジョージが言葉(おそらく、下手な言い訳か誤魔化しになる予定だったもの)を失った。

 愕然とした表情で目を向けてくる二人にニッと笑いかけてやって、リンは、ウィーズリー夫人の興奮した黄色い声を背後に残し、さっさと部屋を出ていった。

 たまには、夫人の好みに合った話題で、振り回される側として会話をすればいい ――― 女性として、そして母親として、息子たちの恋愛話に目を輝かせるモリーに捕まって、怒涛の質問責めに遭っているであろう双子に向け、リンは口元に緩く弧を描いた。

4-6. W・W・W
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