翌日のことだった。

 自室で宿題を片付けていたリンは、コンコンと窓ガラスを叩く音を聞いて顔を上げた。見ると、一羽のフクロウが窓のところに止まっている。灰色のフクロウだ。大きめだがクシャクシャで、かなり年を取っているように見えた。

 リンが窓を開けてやると、フクロウはスッと入って来ようとして、窓の桟に脚を引っかけ、部屋の中へと落っこちてきた。リンは慌てて両手で受け止めた。

「だ、大丈夫?」

 答えなど分かりきっていたが、リンは聞いた。フクロウは弱々しくホーと鳴いた。もはや翼を広げる気力すらないらしい。悲劇的だ。

 なるべく衝撃を与えないよう気をつけて、リンはそのフクロウを、スイが昼寝しているベッドの上に乗せてやった。この状況でスピスピ寝ているスイは強者だと思った。

 それから、机の上にあった容器(リーマスが用意してくれたもので、包み紙付きのチョコレートが入っていた)を空にして、そこにミネラルウォーターを注ぎ、フクロウの口元に置いた。フクロウは閉じていた目を片方だけ開け、感謝するように再びホォと鳴いて、ゴクゴクと飲み始めた。

「……君、いったいどこから来たの?」

 よほど遠くから旅をしてきたのかと考えながら、リンはフクロウの脚に括りつけられている手紙を解いた。二通ある。一通はリン宛てで、差出人は友人の一人、ロン・ウィーズリーだ。

「……ロン? 意外だなぁ」

 彼とはいままで手紙をやり取りしたことがない。どうして突然送ってきたのだろうか。疑問を感じつつ、リンは開封した。





――― やあ、リン、元気かい?

 この手紙が無事に届いてるといいんだけど。なにせ、うちのエロールときたら、もはや化石みたいなもんだからな。だけど仕方なかったんだ。ピッグはハリーに使う予定だし、ハーマイオニーのとこはヘルメスの方がいいと思って、そしたら君にはエロールってことになっちゃって。もしエロールじいさんがへばってたら、悪いんだけど、介抱してほしい。

 次の月曜の夜に、クィディッチ・ワールドカップの決勝戦があるんだ。知ってる? アイルランド対ブルガリア。パパが切符を手に入れた! ほかに予定がないんだったら、僕らと一緒に観に行かないか? 君の叔父さん、アキさん?の許可は取ったよ。あの人、君だけじゃなくて僕ら全員分の切符代を出してくれたし! 





「 ――― 叔父上が?」

 リンはちょっと目を見開いた。信じられない気持ちで、手紙を読み返す。読み間違いではなかった。ロンが間違えていない限り、これは本当のことらしい。妙なことがあるものだと思いながら、リンは続きを読んだ。





――― 観に行けるんだったら、イエスって返事をすぐに送ってくれ。いろいろと準備するからさ。あ、そう、君、僕らの家に泊まることになるよ。出発が朝早くだからね。その方が都合いいんだ。

 うちはママ以外みんな行くよ。ビルとチャーリーもわざわざ帰ってくるし、ハリーとハーマイオニーも来る。リンもおいでよ! ジニーとフレッドとジョージが、君に会いたがってるんだ。パパとママも、君を招待したがってる。

 とにかく、イエスでもノーでも、早く返事をくれ。ママとジニーがソワソワしてるから。たぶん君がノーとか言ったら発狂するぜ。冗談じゃなくて。

 じゃあね。





「……この場合、どうしたらいいんだろ……」

 手紙を読み終えて、リンは首を傾げた。叔父が了承したのなら、断る理由は特にない。むしろ断った方が申し訳ないだろう。

 ちょっと考え込んだあと、リンは、もう一通の手紙とエロールを抱えて部屋を出た。未だに寝ているスイは放置しておくことにした。


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