おもしろい光景だと思った。

ぞろぞろと帰ってくるやつらにまぎれて、どこにいたの?という甘い声の問いかけを適当にあしらって、部屋に戻ってから体調不良らしかった丸井に微笑む。


「大丈夫か?」

「おう、まかせろぃ…」

「メシ食えるか?今日はカレーらしいのう。楽しみ、楽しみ。」


にこにこと笑ってやれば、結構付き合いの長い丸井だからこそ、すぐに気がつく。
ため息をついてから病人らしからぬ動きでベッドの上からひらりと飛び降り、笑った。


「えらいきれいな作り笑いだな?」

「そっちこそ、えらいうまい仮病。」

「うるせぃ。」

「にしても、楽しそうにしちゅう。も少し周りに気ぃ配らんと。」


はーっと、再び大きくため息をついて、部屋の窓を開ける。
夏の空気は蒸し暑く、快適な温度に保たれていた室内がすこしだけ侵食された。
風が赤い髪を揺らして、そのまま目を閉じてから窓を閉めた。


「…見てたんかよ?」

「知り合いなんか、あのワケアリそうなねぇちゃんは。」

「トモダチ。シンユウ。」

「なら、俺がどっちにつくか、わかるじゃろ?」


はっと見開く目元に、笑う。

青学のたいていがあのマネージャーを見つめる顔に苛立ちを含んでいるのがわかった。
別に俺はあの娘がどんなもんなのかも、何をしたかも知らん。
それでも、ちょぉと興味がわいて調べとったらこの赤い男がそばにいて、ならば違いはないのだろう、と、

(誰を信じるも俺にはないが、見知ったばかな友人のほうが楽なのは知っている。)

とりわけこいつは、隠し事もするしたまにやたらと面倒だが、味方となれば誰より動く。わかりやすい。
ほんの一部をのぞいてしまえば、立海は丸井みたいな奴の集まりだから面白い。
(その一部に自分も含まれるのは、言わなくてもわかることだ。)

テニスだけなら物足りない合宿になったろうが、こういうのがあると少しは楽しくなってくる。
外村葵に関して深く介入しすぎるつもりはないし、あちらさんもあちらさんで何か組織的なものが動いているのであろう雰囲気はあった。
まぁほんの、自己満足になりゃそれでいい。
中枢で翻弄されるのはきっと、核人物だけでいいから。
「同室が俺でよかったの。」

「まぁな、いまんとこ仲間すくねーし。」

「立海くらいなんとかなろう。毎日一緒におるぶん伝えやすうて、わかりやすい、じゃろ。」


切原赤也なんかはきっと、少しでも力を加えればほどける。
感情の起伏は激しいが、単純明快、デキルやつほど認める男だったはずだ。

わらって、丸井を食堂へうながす。
ちょうどカレー効果もあいまって、鶴の一声がテキメンに心に響くものだと思う。
しかも丸井みたいなヤツがやろうもんなら、信用を得やすい。


「さぁて、俺もいくかのう。」




部屋を出て階段への廊下を歩いたところで、吹き抜けのエントランスに見えた、ボール籠をかかえながらさわやか野球少年と穏やかに笑いあう、黒髪。
(ほう、あんな顔もできるんか。)

くつくつと笑って、階段を下りてから食堂にはいった。
すでにほとんどが席についていて、談笑を繰り広げる。
なんだか知らないけれど、青学の手塚が声を張り上げたところでいったん強制的に座らされて、何だと思ったらさっき少しみたつややかなねぇちゃんが出てきた。
どうやらこの合宿の保護監督者らしく、青学の顧問の友人であるということからあっさりと部員たちの信頼を得た。
(たしかにこのねぇちゃんは外村の身内じゃ。)
先程見た光景からそう思ったが、なんだかあの黒髪は、結構いいメンツに囲まれているんじゃなかろうかと。
なにせ、このねぇちゃんからはほんの少し、俺と似たような雰囲気を感じた。
ここまで役者がそろっているなら、あとは切り崩していくだけだ。

(さぁて丸井、お前さんはどこまでやれるかな。)











「これさぁ、俺、見たんだけど。」

「なんスか?」

「青学の髪長いマネージャーいたろ?」

「あぁ、あの陰気そうな、なんか嫌われてそうな。」

「あいつがさ、これつくってっとこ、見たんだよ。」

「えっマジ?どんだけの量だこれ、」




かかったと思った。
ぱちりと仁王の涼やかな微笑みに目がいって、ふんっとそっぽ向いた。
ちくしょう、葵と無関係装ってると、なんか苦しくなるな。
(これも全部、仁王のアドバイスなんだけどさ。)

ペテン師として名が高い仁王を、完全に信じ切ったわけじゃないし、葵に関するデリケートな問題で、そんなに無神経でいられるほど俺はばかじゃない。
それでも、あいつにとってかなり無関係で、めんどくさいと思ってんじゃないかってくらいの問題に、仁王が進んで首をつっこんでくるとは思わなかった。
だから、わざわざしゃしゃり出てくるってことは、少しでも信じてみる価値のあることなんじゃないかって、考えることにしてみたんだけど。
(仁王は意味のないことは、しない奴だから。)

言われたとおりに呟いた言葉に食いついて来る奴がほとんど全員、残すところはまだここにいない幸村だけ、だなんて、ちょっと最初からとばしすぎたかな。

(うめぇ。)
ちょっと笑って、また大きく一口ほおばった。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -