「…ボス、」
「…」
「…ボス、朝ですよ。」
「…」
「…沢田さん、起きてくださいっ、」
「…ぅ、」
「!」
なぜだろう、起こしてみたはいいけれど、いざ本当に起きそうになるとびびる。
その安らかな睡眠の邪魔をするようなあたしって、きっと最低なんだって思っちゃうくらいの。
(っだめ、しっかりあたし!山本隊長なら、こういうときにもきっと冷静さを忘れないわ!)
「沢田さん、起きてください、朝ですよ!」
「…うぅ、…」
「っ…さ、沢田さん!早く起きないと朝ごはんなくなっちゃいますよ!」
「…、…キミ、」
「ひっ!!」
キミ、
そういって、ボスはちょっとだけ、薄く目を開いた。
ねぼけているのか、あたしのほうへ手を持ち上げて、袖に触れた。
「…んん、ゆめ、みたい。」
「…え、」
「…きみはどうしてここにいるの?」
ゆったりとした口調で、やわらかく、ほんとうにやわらかく微笑んだ。
(誰ですか、ボスの寝起きが悪いだなんて、そんな、そんなことを言ったのは、)
言われたこっちが夢みたいだと思ってしまう。
そのくらいの綺麗な微笑みに、心が高鳴った。
部屋を染めるグレープフルーツの香りも、すべてがその一原因。
あたしの袖に触れていた手をそっと目元において、身じろぎしてから、ゆっくりと体を起こした。
ベッドの横きらきらと光っていた水差しと、コップをすべるように手にとって、とぷとぷと注いでから口元に持っていく。
こくりと飲み下したその姿さえ、やけにまぶしく見えてしまって。
(隊長、あなたの言うとおり、ボスはとっても綺麗です!)
「…おはよう。」
「おっ!!…は、ようございま、ボス。」
「嬉しいな、キミが起こしにきてくれるなんて。」
「え、」
「山本んとこの子だよね。」
「は、はい!」
力強くうなずくと、またにこりと笑われる。
今日はたしか恭弥だったはずだからなぁ、気ぃまわしてくれたのかなぁ、なんていいながらベッドから降りて、アロマポットにオイルを足しにいった。
ちょっと気恥ずかしくなって、あたしは朝食ができております、とか何とか言って、逃げるように部屋から飛び出した。
あ、ちょっと、とか、ボスが止めてくれる声が聞こえたけれど、これ以上話をしていたら、嬉しくってどうにかなってしまいそうだったからだ。
(ボス、あたしのこと、知ってた!!)
その後あたしは山本隊長に朝の出来事を報告しにいったり、アロマオイルのストックからグレープフルーツの香りを掘り出したり、(雲雀さんにお礼を言いたかったけれど、なかなか見つからなかったり。)
朝のちょっとした事件でこんなにも舞い上がれることを実感して、ますますボスへの憧れが強くなって、やっぱり雲の上のヒトだ!なんて思って。
(だから、信じられなかった。)
(それから毎朝、あたしがボスを起こしに行く係りになるだなんて。)
その先のあたしの武勇伝は、数年後にボンゴレの幹事になったってことだけしか、教えてあげない!
FIN!
Thank you!