しばらく時間がたち、ようやく仕事も片付こうとしていたとき、私はあることに気がついた。


「…寝てるし」


すぅすぅと気持ちよさそうに寝息をたてるのは、まぎれもなく沢田綱吉。
なんとまぁ。
随分と心地よさそうじゃない?
ひとが一生懸命やりたくもない仕事やってるっていうのにさぁ?

内心毒づきながら、いっぱいに伸びをして、席をたつ。
彼の席に近づき、塗れた髪の毛を見つめる。

「風邪、ひかないかなぁ、これ。」

たしかに今この部屋は暑いし、それでも夕立のおかげで少しは気温が低くなってきている。
焼けたコンクリートの匂い。

「風邪ひいたら、沢田君の友達にあたしのせいにされそ…」

そのなかに、山本君はいるんだ。

そんなことを考えていたら、なにやらあることに気がついてしまった。

「沢田君、まつげなっがいなぁ。」

肌も綺麗なんだね。
髪も柔らかそうだな。
なんだかなぁ。
この人、結構、

「…綺麗な顔立ち、してるんじゃないの?」

今まで普通だとか、ダメダメだとか言われていたし、私も言っていたけど、なんだか全然そんなじゃないみたい。

雨の音がだんだんと小さくなってきた。
あ、もうそろそろ止むかも。

そう思ったとたん、窓から、一筋の光が差し込んだ。


「わ、ぁお…。」

感嘆の声が、こぼれてしまった。

透き通る髪。
硬く閉じられた瞳が、薄く開いた。
半分開いた口。
頬の下に敷かれた、骨ばった手の甲。
滴る水滴に、差し込んだひかりがきらきらと反射して。

「…、外村さん…?」


まって、私。

私は確か、野球部の、あの人に憧れを抱いていた。
彼が廊下を歩いていて、
たまにすれ違ったりするだけで、
私の顔は真っ赤に染まったし、
全身の血液が騒いだ。
心臓に、甘く、苦しい小さな痛みを感じていた。

なのに。

なのに。


今、私は、彼を忘れて。



沢田君に対して、今とても、心臓が高鳴ってしまった、なんて。


私はきっと、どうかしてしまった。


彼の魅力に、

気がついてしまったのだわ。





夏の暑い日、私はきっと彼に恋をした。

些細なきっかけが、一度降ったスコールのような夕立。

そこではじめて知ったのよ。

あなたがあんなにも儚く、綺麗な人だってこと。


彼には好きな人がいて

私なんかはきっと眼中に入らないけど


でも、ねぇ、私ね、

週に一度だけでも、


あなたに会えることすら嬉しいわ。


追うことしかないのね、私の恋。


でも、それでも。

私だって、あきらめるために、恋したわけじゃ、ないの。





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