「むっむりむりむり―!!」

「まさか、できるでしょう?」


琥珀の瞳があたしの瞼を閉じさせる。見つめあうにはあまりに綺麗すぎて、いけない。
にこりと笑ういじわるな顔が想像できて、少し泣きたくなった。


「できないの?」

「…やるってば!」



テストで負けた。
それだけだ。

ただし、あたしのすてきな人はただで負けさせてくれない。
罰ゲームをしようなんて言い出すものだからどうしようもない。

(罰ゲームにキスしろだなんて、ほんとうに、意地が悪くて!)

あたしが極度の恥ずかしがりだと知った上での申しつけだ。
うすく開いた瞼から、にこにこと笑う綱吉くん。
楽しそうにしちゃって!(背中に小悪魔の羽根が見えるんだから!)

そうこう考えているうちに、こいつ、やる気だ。
なんてったって顔が近い。
頬に、おだやかな吐息がかかる。
(まったく緊張してねぇ!!)


「つっ、…つな、よし?」

「なぁに?」

「ち、ちか、ちかちか、近いなぁあちょっと、」


ちゅっ

にこり。
ちょっと。ちょっと待って、高らかに鳴り響いた音と勝ち誇ったような笑顔はなんなのよ。

(そしてめちゃくちゃ生々しく、柔らかな感触が残っている。)


「負けは、負けだよ?」


合わせられた、生クリームみたいな唇も、近い距離で鼻先をかすめる髪の香りも、ぜんぶがまざって頭がくらくらしてきた。

(あぁ―、待ってあたし流されてるよ、つな、よし、)

(…だいすき…、)



一瞬は見開いた両目を、静かに、静かにとろませた。



負けてよかった、なんて、思ってしまったよ、あたしのばか。








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