風邪っぴき
「なんや、馬鹿が風邪を引かん言うんは迷信やったんかぁ」
いつにもない辛辣な言葉にうっすらと目を開ければ、ドアの近くに廉造が大変つまらなそうな表情で立っていた。
「なんだよ……馬鹿にしに来たのかよ……」
頭を動かす事すら辛く、目だけでそちらを見遣ると廉造はひとつため息を零し頭を掻く仕草をした。
「まあ、そんなところやな」
廉造は素っ気なく答え、手に持っていた洗面器をベッドの傍らにあった椅子の上に置く。
その際中の氷が音を立てた。
歪な形のそれはプカプカと存在を示すように幾つも浮いている。
廉造はそれにタオルを浸してぎゅっと絞るとベッドの方へ歩み寄り、俺の額にそっと当ててきた。
ひんやりと気持ちの良い感触に、俺は眼を細める。
「しっかり体調管理せぇへんから風邪なんか引いてまうんや…」
突き放したような言葉とは裏腹に、頬に添えられた指が僅かに震えていた。
「俺なぁ…お前のそういうとこ、めちゃくちゃ好きだ」
「……………なんの事かさっぱり…」
わかっているクセに、赤い顔のままそっぽを向く廉造にこれ以上ないほど愛おしさを覚え、俺は心地の良い感覚に浸りながらゆっくりと目を閉じた。
「…おやすみなさい…マイダーリン…」
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