仲間
「シルビア!カイン!何があったの!?」
シルビアがカインに背負われているのを見たときは本当に驚いた。ちょっと前まで元気な姿を見せていたシルビアが、カインの首筋にぐったりと顔を伏せている。揺れる足には、血の滲んだ包帯が巻かれていて、痛ましい。
しかしカインの様子から、重傷ではないようだった。
「ティファ。ちょうど良かった。ポーションを持っているか?」
「うん、あるけど……いったい、何があったの?」
「ああ……その前に、シルビア。……シルビア?」
「シルビア、寝ているみたいよ」
起きる気配のないシルビアを指差して言うと、カインは不服そうに眉をひそめた。クールなカインのこういう表情は珍しいから、とても新鮮。
「……さんざん文句を言っておいて、こいつ」
そう言って肩を落とす。シルビアが落っこちてしまうくらいに。
そんなカインのことなどお構いなしに、シルビアはぐっすりと眠っている。きっととても疲れているのだろう。
「ふふ、テントに寝かせてあげましょうか」
「……すまん。そうさせてくれ」
テントを張りおえると、カインはシルビアがカオス軍の戦士に狙われたという経緯を話してくれた。一人で「皇帝」と対峙していたこと。カインが偶然見つけたこと。シルビアはケガをしていたけど、運良く相手が引き下がったこと。――そして、歩けないシルビアを仕方なく背負ったら、ひたすら文句ばかり言われたことの愚痴まで溢した。
最初こそ深刻な話だったのに、いつのまにかシルビアへの不満を淡々と言うので、笑ってしまう。
しかし確かに、彼の背中は乗り心地が悪そうだった。
「でも、次は前で抱えてあげたほうが、いいんじゃない?」
「フッ、次は何がなんでも歩かせるさ」
そう言って、いたずらっぽく笑う。彼にしては、やっぱり珍しい。こんな子ども染みた一面があるなんて。
しばらく会話をしたり黙ったりしていると、ふいにカインが切り出した。
「ティファ、代わりにシルビアを見ていてくれるか。俺は、まだ散策していないところを見ておきたい。このあたりは、コスモスの聖域に近いから安全だと思うが……」
「いいけれど。シルビアが起きるのを待たなくていいの?」
「起きて何を言われるか分からんからな」
冗談めかしく言い残して、カインは行ってしまった。
「ティファ?」
シルビアは、ぼんやりと開く目を擦りながらテントから出てきた。
「おはようシルビア。ケガはどう?」
「平気……けど、なんでティファ?」
まだ目覚めきっていないようで、のんびりとした声で言う。
事の経緯を話すと、シルビアは項垂れながら「カイン怒ってた?」と小さく呟いた。
「怒ってないよ。心配してた」
「心配かあ」
「怒られるようなことしたの?」
「迷惑かけちゃったし」
「迷惑だなんて、カインは思ってないよ」
シルビアは何も言わずに、ぼんやりと空を見上げる。きっとカインのことを考えているのだろうけれど、迷惑だったと思うのは、なんだか切ない。カインはそんなつもり、少しもないのに。
何と声をかけるべきかと迷っていると、シルビアのほうから口を開いた。
「あたしもティファみたいに、拳を鍛えるべきかしら」
「シルビアが?シルビアにはすごい黒魔法があるじゃない」
「……すごくなんてない。ぜんぜん、歯が立たなかったもの」
皇帝との戦いを言っているのだろう。ふだんの凛とした雰囲気とはうらはらに、しょんぼりと肩を落としている様子は、年相応というより少し幼く見えた。
どんなに強気であっても、実際強くて頼りになる戦士であっても、彼女だって一人の女の子なのだ。不安になるときだって、弱気になるときだってある。いつも元気をもらっているぶん、支えになりたい。そう思うと、自然に言葉が出ていた。
「大丈夫」
シルビアは目を丸くさせてこちらを見る。
「次は、大丈夫。シルビアなら、大丈夫」
「……そうかな」
「そうだよ。それに、カインだって、わたしだって、みんなついてる。一人じゃない。シルビアだけじゃなくて、みんなで強くなろう。ね、そしたら誰にだって負けないわ」
「うん……」
シルビアの口角が上がる。張りつめた空気がふっと和らぐのを感じた。彼女の辛さを少しでも解きほぐせただろうか。
「……その前にカインに元気な姿見せなきゃね」
「何言われるかわかんないから、しばらくやめとく」
あからさまに顔をしかめてそんなことを言うものだから、思わず吹き出してしまった。
20170112