武器
イミテーションの、最後の一体を仕留めた直後だった。
「フリオニールって、なんでもできるのねえ」
なんでも、とはどういうことだろうか。
振り返ると、シルビアが瞳を爛々と輝かせている。珍しい表情だと思った。
「どうしたんた。いきなり」
「剣だけだとおもったのに、弓も、槍も、魔法だってできるんでしょ」
「ああ――」
そういうことか。
おれの短剣をまじまじと見つめて言う言葉に、合点がいく。おれは人より扱う武器が多いから、それが不思議で珍しいらしい。
周りには、自分の得物をただひとつと決めている奴らばかりだ。ウォーリアも、セシルも、ジタンも、ラグナも、バッツ――は、少し違うのかもしれないが、皆基本的に同じ武器を扱う。それが普通なのだろう。
「お父様も斧や短剣を使えるけれど、でも、いつも剣を使うのよ。なんでフリオニールはなんでも使えるの?」
「なぜ、と言われても……そうだな、使えるから使う、としか言いようがないんだが」
「ふうん。変なの」
変。
いや、確かに皆とは違うが、そこまで言われる筋合いはない。使えるものは使う。それで闘えるから闘う。ただ、そうしてきたら武器が増えていった。
そうして生き延びてきたのだ。
「武芸十八般ってやつかしら」
「ブゲイジュウハッパン?」
「ええと、たくさんの武器と技の達人って意味、かな」
「難しい言葉を知っているんだな。シルビアの国の言葉か」
「ううん。誰かに教えてもらったの。誰だったかな――」
シルビアは考え込んで宙を見つめた。
人より記憶の戻りの早いらしいから、もとの世界のことを思い出そうとしているのだろう。
「だが、おれは達人ってほどじゃないから、まだまだだな。とくに魔法はなかなかうまくいかないんだ」
「そうなの?」
「シルビアに比べたら、まだまだだよ」
「あたしに比べたら、誰だってまだまだだわ」
なんて自信なのだろう!
しかし、屈託なく笑う少女からは、たとえ傲慢な態度ですら嫌みが感じられない。彼女特有の、不思議なところだった。
シルビアも、護身用なのだろうか、短剣を腰につけている。豪華な飾りで縁取られているそれは、かなり高価そうだ。よくよく見れば、シルビアの身につけているものは装飾こそ少ないが上等ものばかりで、ずいぶん値の張りそうだった。
案外、良いところのお嬢様なのかもしれない。
「なに」
怪訝そうに、シルビアが言う。
じろじろ見すぎてしまったと、自分の思慮のなさを恥じた。
「いや、シルビアは短剣を使うんだなとおもって」
「ええ、お父様に教えてもらったの」
「弓は使わないのか。魔力が切れたとき、そのほうが都合がいいんじゃないのか」
「つ、使わないわ!必要ないもの!」
突然、シルビアの様子が一転した。
彼女の持つ強大な魔力を自負しているようにもとれるが、どうやら様子が違うようである。先ほどまでの傲慢な態度ではない。どうしても弓を使いたくないような印象を受ける。
「この話はこれでおわり」とでも言うように、シルビアはそっぽを向いた。
なんて分かりやすいのだろう。
「……苦手なのか」
シルビアは顔を背けたままだ。拗ねるような態度は年相応で、なんてかわいらしいことか。
「別に、恥じることではないだろ」
「苦手でわるい」
「悪いとは言ってない」
「必要ないもの」
「……分かった。分かった」
完全に臍を曲げてしまった少女の機嫌を持ち直すのは骨が折れる。だが、面倒ではない。なんだか、非常に懐かしいのだ。
「おれが教えてやろうか」
「……弓の名手に、ため息つかれるほどの腕前だけど」
「それは厄介だな。まあ、なんとかなるさ」
その代わり、魔法を教えてくれないか。
そう言うと、シルビアは「あたしは厳しいわよ」と目を細めた。
20150517