Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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 「あられ、ぴんくいろはきらい」と、視線下の彼女はそう言った。え、と漏れ出た声にちらりと目が合うが、すぐさま逸らされた。まあおれっちに合わさる目はないんやけど。それでも、むつ、と真横一文字に引かれた唇は動く気配がない。
 _____いや、正直意味わからん。だってあられがピンクの花が欲しいって言うたやん、だから用意したんやけど。別に全然怒っとらんねんけど、意味がわからんくてどう対処したらええか分からん。真ピンクのチューリップがしなりと揺れた。

  「どしたんあられ、この前ピンクの花欲しいって言うてたやん」

 あんまり大差ない身長差を埋めるようにしゃがみこみ、あられの顔を覗き込む。相変わらず目はどっかいったまま。すらりと伸びて顔にかかった彼女の髪に触れ、なんとなくゆっくりと耳にかければまた視線が合う。今度は逸らされない。そのままいつもより落ち着いた声色で問うてみれば、開かずの間みたいに閉じられてた口がやっと開いて、こそり。

  「___だって、ぴんくってコドモがすきないろだから。あられ、コドモじゃないからすきじゃないもん」

 膨らんだ頬から落とされたのはそんな言葉。あられらしい理由に思わずにゃは、と笑みが漏れてしまって、余計睨みつけられる。慌てて誤魔化すようににゃはにゃは言ってれば呆れたのだろう、あられは小さな溜息をついてはちまりと服の裾を握った。そんなあられの様子にぎゅむ、と手を固く握った。
 彼女にしては珍しく折れることがなく、自分の意思を通したまま。いつもは何だかんだ言いつつも受け取ってはくれるんやけど。どうしたもんかなあ、と手に持った花をくるり。あまいような、鼻にもぞりとくるような香りが少しだけ漂った。
 おれっち、あんまりこの匂い好きちゃうんよな。おれっちが蝶になったみたいで、なんか、嫌や。__あ、どうせならあられが蝶やったらええのにな。そしたらおれっちが花で、毎回おれっちの蜜を取りに来てもらうねん。ええなあ、それ。

  「…せやなあ、あられはオトナやし好きな色くらい変わってまうよなあ」 

 なんだかよく分からない思考はどこかにくしゃくしゃぽいしちゃって、すくっと立ち上がったらなんとなく言葉を落とす。別に大人でもピンク色を好む人だっているけれど、子供がピンクを選ぶことが多いのは確かだ。おれっちがいた小学校でも大抵の女の子がピンクを狙って争奪戦をしていた。それがおもろくておれっちはその間にこっそり全部取ったりしとってんけど(勿論怒られた)。
 まあそんな事はどうでもよくて、大事なんはおれっちはこれからどうしたらええかってこと。この花は当然嫌なんやろうけど、おれっちだって用意したんやからなんかは渡したいわけで。

  「___でも正直なところな、あられはさ、別にピンク色嫌いになっとらんやろ?」
  「っそんなことないもん!あられコドモじゃないし、ぴんくいろなんて…」

 じゃり、と砂をこするような音と共にぶらりと足を揺らしながら体を捻っていれば、目の前と通り過ぎていったソレに目を奪われる。それは正しくおれっちがなりたくない、なんて想像していたもので。

  「おれっちはな!オトナなあられもかっこよくて好きやねん。…でもな、いつものあられで笑ってるあられも好きやねん」
  「____え、バンおにーちゃ、これって」

 驚いた様子で差し出されたものを呆然と見つめるあられに満足気な笑みを浮かべる。いたずら、やないけど驚かせは成功やな。
 差し出したのは一本のチューリップを赤色のアネモネで囲んだ花束。先程の蝶が留まった先がアネモネで、それからピンとアイデアが浮かんだのだ。勝手に摘み取ったから後で怒られそうやけど、今はそんなこと気にしてられん。今はあられに花束を渡したいんや、後でなんとでも怒ったらええわ。…まあ、花束にしてはちょっとお粗末なんやけど。それでもあられは顔を輝かせてくれていて、内心ほっと胸を撫で下ろした。

  「なあ、オトナなあられもコドモなあられも好きなおれっちって、ワガママ?」

 いじわるに口許を緩ませたら、舌足らずのようなむにゃりとした口調でぽつりと問いかける。いつも通りのおれっちに安心でもしたのか、あられは苦笑にも見える笑みを浮かべる。おれっちもそれにどこか安心して、おんなじように笑っていて。両手いっぱいになった花は優しくて柔らかな香りを漂わせていた。

  「…ううん、あられもバンおにーちゃんもコドモだもん! わがままじょーとー、だよ!」

 そう言ってかわいらしい笑みを見せたあられは、花束とおれっちの両方をとるようにぎゅうときついた。




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