Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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  「これ、リィに渡しといてくんねー?」

 ちょこん、かわいいラッピングが施されたチョコが僕の手に乗せられる。それを見て、ざわ、と胸が疼いた。
 今日一日、クザトくんが皆に渡しているのはちゃんと見ていたのだ。なんで見てたの、って?…野暮だな、聞かないでよ。とにかく、ほぼ全員に手渡しで渡しているのは見てたんだ。…勿論、リリィにも。
 だからこそ、このチョコの意味が知りたかった。だって昼間に渡してたくせに、二つ目のチョコを渡す意味なんて、そんなの。信じたくなかった、からこそ、ちゃんと彼の言葉で聞きたいのだ。

  「クザトくんさ、お昼に渡してなかったっけ?偶然見ちゃったんだけどさ」
  「え、…あー…や、別に……良いから渡してくれよ、な」

 それとなく濁しながら問いかけてみるも、返ってくるのは僕以上に濁された言葉だけ。終いには早く渡して、なんて言っちゃってさ。
 僕にはひとつもくれてないくせに。

  「……は、おま、なんで」

 気付けば、僕は袋を開けて中のチョコをいとも簡単に口の中に放り込んでいた。それはココアパウダーがはらりとかかっていて、ほろ苦くてあまい。はずなのに、僕は何も感じなかった。ただ義務のように噛み砕いてごくんと飲み込んだ。きっと美味しかったはずなのに。今は口にまとわりつくあの感覚ですら億劫に感じた。

  「クザトくんは、さ。僕の分は用意してなかったの?」
  「、……それ、は」
  「まあそうだよね、リリィが本命なんだから僕の分なんて必要ないもんね」

 ただ聞くだけのつもりだったのに。一度口を開いてしまえば言葉は留まることを知らなくて、自分でも認めたくない言葉がすらすらと流れ出てくる。こんな事自ら言いたくなんてなかったのに。ぐう、とのし上がるような感覚に僕はふいと顔を逸らした。

  「っリィのは、……口実のつもりだった!」

 もういい、そう思って背を向けたその時、びくんと肩が揺れるくらいに大きな声が聞こえる。その勢いに思わず振り返ると、何かを堪えるような表情のクザトくんがいた。

  「そのチョコだってリィに二つ渡すってのは伝えてたし、リクのだってちゃんと用意してた、んだよ」

 どこか震えた声でぽつりと話のあらましを告げられ、どくんと胸が高鳴る。いや勝手に勘違いして食べたのも悪かったけど……いやでも渡してくれないクザトくんも少しは悪いよね。
 …とはいえ、リリィを口実に使ってまで僕に渡したい理由なんて、漫画にいるような天然でもない僕は当然察してしまって。じい、と彼を見つめていればふいと視線を逸らされる。けれど今はもうそんな事で苛立ったりなんてしない。

  「……怒らせて、悪い。もうお前なら分かってると思うけどよ…___受け取って、ほし、い」

 じわりじわりと浮かぶ紅色に、そっと手を伸ばした。触れた途端びくりと大袈裟に肩が揺れ、ちらりと視線だけが僕の方へ向けられる。でも、それからすぐに逸らされてしまって。
 なんだかそれが無性に嫌で、今は僕だけを見て欲しくて、両手で彼の頬を包んだらぐいと自分の方へと向けた。

  「____バカ、こういうのは最初に渡してよ」

 そう言って笑ったら、やっとあまいあまいあじが広がった。




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