は、と息が漏れた。どくどくと心臓が痛いほどに高鳴るのを感じる。嫌なのに外せない視線の先では、見たくもない光景が広がっていた。

 「ありがとね、チョコ」
 「ううん、リクくんの為なんだからいくらでも作れるよ」

 酷く揺れる脳内に少し上擦ったリクの声とあまったるく懐くような女の声が響く。今まさにチョコレートを渡しているようで、リクの手には明らかに本命向けのラッピングがされた箱を手に持っていた。オレよりも恋愛経験の多いリクなら分かるはずだ、オレでも分かるくらいなのだから。なのに受け取ったってことは、そういうこと。

 「あのね、リクくんはもう分かってると思うけど…」

 女がまた口を開く。きっとその先の言葉は、オレも言いたかったこと。リクは何も言わない。あの女の言葉を待っている。それがまたオレに事実を押し付けているようで、更に胸が苦しくなった。
 オレはチョコを渡すことも、想いを告げることも出来ないまま、ここで失恋するのだろうか。女とリクが結ばれるところをみて、オレは。

 「……や、だ…リク、いやだ…」
 「…クザトくん、?」

 自然と体は前に進んでいて、思わずこの状況に足を突っ込んでしまっていた。リクも女も驚いた様子でオレを見る。
 ぐず、と鼻をすすった。どうやらオレは泣いてしまったようで、気付いてからはぽたぽたと涙が止まらなくなる。クソ、オレ男のくせにダセーよ、早く泣きまないと。そう思えば思うほど涙は溢れて止まらない。

 「やっぱり、来てくれた」

 無理やり止めようと腕で目をおさえたその時、頭上から声が響く。え、と顔を上げる間もなくふわりと体が何かに包み込まれた。それは考えるまでもなく、大好きなリクで。
 嬉しさと動揺で混乱している間にリクは女と話をしたようで、キンと響く女の怒号がひとつ。びく、と揺れたオレの体がまた強く抱きしめられ、カツカツとヒールの早足な音が遠ざかっていく。

 「…り、リク、オレ」
 「そのチョコ、誰宛?」

 今更、いやとてつもなく今更だが後悔が溢れてくる。感情的になっていたとはいえ、邪魔するなんて。俯いていた顔をなんとか上げてリクの顔を見る。けれどリクは穏やかな表情をしていて、逆にオレが困惑したような表情を浮かべる。
 抱かれたままの腕に手を添えると簡単にそれは外れ、そのまま数歩下がって距離を取ると口を開く。先程の行動の謝罪を、そう思っていたのに突如として渡られた言葉にぱちりと目を丸くする。

 「そのチョコ、貰ったものじゃないでしょ?」

 そう言ったリクの視線はオレの手元に注がれていた。それが妙に恥ずかしくて、くいと後ろに隠した。むす、と唇を尖らせたリクがなんだか可愛らしくて、ふは、と思わず笑い声が洩れる。それに更に眉を寄せたリクはオレの返答を急かす。

 「リクに……リクに、渡すつもりだった」

 あんなにも高まっていた鼓動はいつの間にか落ち着いて、すらりと言葉が出た。告白と同等の発言をしたというのに、リクは変わらず笑みを携えていて。

 「そっか」

 緩く柔らかな、いつも通りの返答。それがすごく嬉しくて、に、と口角が上がった。それから差し出された手に隠していたチョコレートを置く。それを受け取ったリクはちらりと中を覗いて、ふにゃりと眉を下げて笑った。

 「──リク、好き」

 ふと、自然に流れ出た言葉。何故か今は照れも羞恥もなくて、ただただ伝えたかった。リクは驚いたようにぱちぱちと目を見開くも、また細めると同時にするりと互いの手を絡めるように握られる。

 「…うん、僕も。好きだよ」

 そう言ったリクは年相応の子供のように笑って、ゆらりと繋がれた手を揺らした。




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