なんだかんだ


 朝だ。気色わりィ朝だ。全人類をオレが殴らンまま世界が滅びるよりよッぽどゲロる朝だ。いつもの如く10時を回ってからオレがベッドから体を起こすと、なんでかあのうるせェ煙野郎がオレの部屋にいてオレのクローゼットを漁っている。いつもクローゼット開けっぱなしにしてたオレが悪いとかいうフザけやがッた異論は絶対認めねェ。オレは意味わかンねェから、右目を擦りながらさっきまで下敷きにしてた枕をブン投げる。
「何してンだよてめェ、」
 朝だから口の中がねちねちしてて、無様な声になった。チッと舌打ちをひとつする。モジャモジャ赤髪のアホは大して痛くもねエふわふわ枕に「いて!」と肩を縮めては、「起きたんじゃん」とこっちを向いた。いつものニヤつき顔に腹が立つ。
「いや、たまたまここに扉の開いてるシンイのクローゼットがあっただけだってば」
 フザけたヤツはここにいた。いや、こいつは女々しィ服なんか着てやがるトチ狂ったヤツってのは重々承知。胸がありャもっと勘違いされるだろうに、好んであンなの着るとか気が気じゃねえよ。
 ッて、あんな頭わりィヤツの服装とかは今はどうでもイイんだ。しげしげとクローゼットの中を物色する端麗さが鼻につくアイツの横顔に、オレは頭にハバネロぶっかけられたみたいになる。ベッドからするりと立って一発華ロリ野郎の腹にカマそうと思ったが、足をベッドから床に向かってぶらりと吊り下げた途端に腰にズキズキ痛みが走る。エ、オレ、まだ全然歳じゃねェんだけど?意味わかんねェ、ザけんな!
「シンイ、シャツとか着ないよな」
 下着じゃない方な、とあいつは付け足す。言われなくてもわかるッてんの。オレのクローゼットの中把握してンのはおまえよりもオレに決まってる。やっぱオレ、こいつ殴りてェ。けど歯がゆいくらいに腰が動かなくてクッソイラつく。
「は?おまえにンなこと言われる筋合いねェし」
 ぎ、とオレは奥歯を噛んで睨む。それを見てなんなのか、煙羅はふは、と笑ってクローゼットをぱたんと閉める。
「関係あるよ」と、アイツはフリルスカートをきちんと整えながらベッドのオレの横に座った。
 ぎち、とマットレスが音を立てる。ンだよ、と横腹を殴ろうとしたが、歳相応にデカい煙羅の右手に手首を掴まれて阻止される。間髪入れずにオレの腰に心地よいつめたさの手が触れる。そこで初めてオレは今日は上に寝巻きのスウェットを着ていないことを知る。ア、と眠る前の事柄が脳裏にフラッシュバックする。なんで今日腰が痛いのかが一瞬で分かった。少し唇を震わせたオレの耳に、こそ、と息を吸う煙羅の呼吸が聞こえる。
「シャツだと脱がし甲斐があるかなと思って」
 ぼそ、とそうクソ赤髪は零した。目をカッとさせて煙羅の方を見た。目がばっちり合ってしまって、時が止まる。にし、といつもとは違って意地悪いオスの顔でわらっている煙羅。時はおれが下唇を噛んでから口を開いたことによって再び動き出した。
「――殺すぞ、?」
「マジで?それ昨日の夜も聞いた__あれ、今日の朝だっけ」
 けら、という煙羅の笑い声は、どすんという鈍い音で断ち切られた。
「いッ__…!!!」
 オレの隣で永遠に悶えてろ、と舌打ちをして、オレは火照った顔を隠すように掛け布団にくるまった。そのままオレは一日中、腰を休めたッてのは、全てを察した読者のお前らにはお分かりのとおりである。

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