Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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「え、これちょーかわいい」
 と、パァルは手にしていたスプーンでテレビの画面を指した。流れているのは有名化粧品ブランドのCMで、今年の春にオーディションで一般女性の中から選ばれたという新人モデルが起用されている。実際に僕も、このブランドの化粧品を何回か女のコにプレゼントしたことがあった。
 この館の一階にはサロンがある。中には基本的な家具が揃えられていて、館の住人はここに自由に友人などを呼ぶことができるのだが、なかなか客を呼ぶようなことはない。そのため、ほとんど住人たちのフリースペースと化している。サロンにはそこそこの大きさのキッチンが付いているため、バレンタインが近くなると館の女子達はここを占領し、男子諸君の立ち入りは禁じられるというのが恒例行事だ。
 僕とパァルは、キッチンについているカウンターに並んで座ってテレビを見ている___別にわざわざ二人仲良くテレビを見に訪れたわけではない。僕がたまたまサロンの扉を開いたら、パァルがカウンターに座ってレモンシャーベットを食べていたので、なんとなく隣に座っただけだ。やっているのは、つまらないニュース番組で、しばらく見ていたところCMに切り替わった。パァルはこんなものを見るのだろうか。いや、なにもやっていないから仕方なく見ているだけだろう。この時間には特に面白い番組はないのだ。僕たちの座っているところから見ると、テレビがちょうど斜め後ろのほうにあって、首をきつい角度で捻らないと視界に入れることができない。ずっと見ていると、首にずっしりとした痛みがのしかかってくる。この椅子は回らないのだ。
「そう?僕的には微妙だけど」
 頬杖をつきながら正直な感想を述べるが、返答がない。振り返ると、パァルはむすっと頬を膨らませて、木のスプーンでシャーベットをつついている。
「新作のリップの話だし」
 そう言って、パァルはちょっとぐしゃぐしゃになったシャーベットを口に運んだ。「そうなの?」
「そうだよ___てか、そうやってすぐ女の子見て評価すんの、よくないよ さっきのモデルさんだって、普通にかわいいし」
 眉間にしわを寄せたまま、パァルはぐしゃぐしゃになったシャーベットを見つめた。ふと、パァルがカウンターに肘をついて椅子に座りなおす。ごく自然な動作だった。前かがみになった拍子に耳にかけた髪がはらはらと顔にかかる。そういえば、今日のパァルは髪の毛を結んでいなかった。その姿に暫し見とれていると、僕の視線に気づいたパァルがこちらを向いた。「なに、見てるの」
「なんでもない」ふは、と僕は軽く笑って、テレビの方に向き直った。もうとっくにCMは終わっていて、この地域周辺の気象情報が流れ始めたところだった。パァルは週末の天気には興味がないようで、またしきりにレモンシャーベットを食べ始めた。何気ない時間が流れていく。
 
「僕的には、パァルちゃんは結構いい線行ってるけど」
「なにそれ、やめてよ」



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