Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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 面倒くさい。現在の状況はその一言に尽きた。がやがやと騒がしくなる教室、隠すことない焦りと苛立ちの雰囲気。そこはまさしく地獄、と言わんばかりの空気がたちこめていて、もう俺は今すぐにでも逃げ出したかった。
 その事の発端である今回の主人公役でもある王子…リクが、まだこの場にこない。後ろから何度も急かされるままに何度も携帯に文字を打ち込むが、一向に既読がつく気配がない。時間が過ぎていくと共に次第に大きくなっていく不安。その雰囲気を知ってか知らずか、もう一人の主人公役の雛伊が淡々と口を開いた。
  「…もし、このままリクさんが現れなかったら……どう、しますの」
 その言葉にしんとあたりは静まり返った。あのずっと後ろで騒いでいた煙羅でさえ。どう返せばいいか、分からないのだろう。
 皆リクのことを信じてない訳じゃない。…でも、もし、来なかったら。その不安だけが残って、誰も何も言えないのだろう。けれど、俺は何処か謎の自信だけがあった。
  「____来るだろ、多分。 …や、確証はない、けど」
 ふと浮かんだ言葉が、思いが、するりと口から流れて紡がれる。あれ、言うつもり無かったのに。やっちゃったか、なんて自身の思いとは裏腹に周りはその安易な言葉で動かされたのか、そうだよな、なんて言葉が飛び交い始める。…単純、なんて言葉はちゃんと言わないようにして。
  「………、あ」
 そうしてもう一度携帯を見たら、どくんと心臓が大きく高鳴った。既読が、ついた。また最初と同じように文字を打ち込んでいくと、そのまま既読の文字が延々と付けられている。返信はない。…これ、まさか開きっぱなしなだけか?
  一度舞い上がった気持ちは一瞬にして急降下。頼みの綱の連絡すら無視されているならどうしようもないのでは。流石の俺でもわかる。……これは、相当、やばい。

本番まで、あと三十分。そんな知らせが無慈悲にもカチリと鳴らされた。



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