インスタントカメラ


注意!!!!
・ほむぺでも本編でも一切説明のない、魔術師のたまごのココと使い魔レノンドゥースの魔法の世界観が入り乱れてカオス・オブ・カオス
・読んでいるうちにわけがわからなくなる
・かてぃさまの書いたリクヴァレ前提(????)なのでリクヴァレ要素があり、しかもリクヴァレなのかびみょ〜
・わけがわからないよ
・でも本当のリクココはちゃんとおいしいとおもう
・文才が欲しい

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「なあ、面白いもんが撮れたんだけどさ」
 俺はポラロイドで撮った写真を裏向きにぴ、と差し出した。勿論、ポラロイドはココの机から拝借した。「勝手におれのインスタントカメラ使うなよ」、と溜息混じりにココは言う。が、予想通り、写真をオモテに返した途端、ココは息を飲んだ。
「お前、なんだよこれ」
「さあな、ただ、お前が喜ぶかと思って」
 に、と俺は笑って、小僧のベッドに腰掛けて、足を組んで胸元の黒いリボンをいじる。知ってるか、俺、なんの姿でも真似られてさ、今は黒猫じゃなくて、ココの姿をしてここにいる。つまりこの部屋にはベッドに座っているココ(俺)と、机の横の椅子に座っているココ(ココ)、とココが二人いる。俺にとってココの姿というのは扱いやすい。いつもこいつに召喚されるようになってから、細かいとこまで覚えやすくなったので、動かすのもうまくいく、というわけ。ま、猫の方が俊敏で動きやすいのは事実だけど、ココを嗤ったりいらいらさせたりするには、表情のわかりやすい人間の身体してた方が何倍も効果があるのは、聡明な読者諸君ならお分かりかと。しかも、俺がココの姿をして嗤うということは、ココにとっちゃ自分に笑われてるようなもんだから、何かとココの姿をしているのは都合がいい。
 ちなみに、俺がこいつに渡したのは1時間ほど前に撮った、できあがりほやほやの写真。エディブルフラワーの兄の方と、紅茶派の軍服ワンピース女が写ってる。廊下の窓辺、結構あまあまな雰囲気だった。兄の方が色々な指輪をはめた手で軍服ワンピースのヤツの髪を梳いているところ。たぶん付き合ってるんだろうな、若いな、って俺、ぼんやり思ったけど、ぱしゃ、って無意識のうちに、しかもピントばっちりで撮ったのは、俺、結構良い反射神経と写真のセンスしてると思うぜ。あ、自分で言っちゃった。
「レノンドゥース、さっきの質問に答えろ」
 小僧は机に頬杖をついて、人差し指でぴ、と俺を指してくる。ハバネロ100%のソースを顔面にぶちまけたみたいな顔をしてるかと思ったら、意外と、口は真一文字だ。静かな怒りってやつか。あーあ、綺麗な碧眼がぎらついちゃって。恋する乙女ってのはこわいね。いや、乙女じゃあないか。
「というかその命令、おれ、巷で人気のアレクサとかいうやつみたいだな」と適当にはぐらかして、にひ、と笑ってみせると、あいつ、すぐ口を歪めた。あ、やべ、あいつ、詠唱するな。もご、とココは口を動かした。何を言ったかは聞き取れなかった。舌打ちする間もなく、すぐに俺は四肢がもげるような強烈な痛みに襲われる。痛みで声は出ず、息も出来ず、手で押さえることもできず、ただ、悶えるしかない。松ノ木折り、たぶん、妖霊全体に「仕えてる魔術師がしてくる一番嫌いな魔術について」のアンケートをとったらダントツ名前があがる、俺も一番嫌いな魔術。だってこれ、なんの捻りもねえけど、とにかく痛い。火に炙られるような、とか液体窒素に漬け込まれるような、とか、トリッキーな痛みだったら逆にマゾヒズム開花させるようなやつもいたかも、かもだけどさ。ちなみにこの松ノ木折り、古代ギリシアに由来があるらしい。ったく、こいつ、自分を鏡で映したようなヤツにこういう仕打ちするの、本当に慈悲ってのがない。
 やっと魔術の効果が切れたころ、俺は深呼吸してどうにか痛みを記憶の底へ押しやると、ココを睨んだ。あいつ、相変わらず頬杖はついたままだったが、もうこっちは見ずに、机の接している壁の窓を上の空で見つめている。
「お前、他の使い魔にも『松ノ木折り』使ってたら、すげえ嫌われるだろ」
「『松ノ木折り』は疲れるからそう使わねえよ、てか答えろよ、レノンドゥース」
 こいつ、俺くらいの妖霊は呼び出せるくせに、かなり単純なところがあるから話を反らせたりしないかと思ったが、やっぱり、無理だったか。チッ、と舌打ちをしたのは俺だったかココだったか。まあ、どっちにしろココってことには変わらないな。
 先ほどから俺、こいつに本名で呼ばれてるけど、その度とてもむず痒くなる。背中にぽんと毛虫を入れられたような、あの、感じ。魔術師とか妖霊ってのは、本名に弱い。本名は命と直結してて、本名を知っていれば相手を殺せるようなものなのに、魔術師は使い魔の本名を知っていて、俺らは魔術師の、ココの本名を知らないなんてアンフェアじゃねえか、とよく思う。ココの本名がわかったら、話を反らすのも簡単かもしれないのに。
 じ、とココを見ると、こいつはかなりご立腹のようで、こつ、こつ、と指の爪で机を叩いている。あっちも窓を冷たく、でも燃えるような目で見ていて、俺は思わず俯いて溜息を吐いた。
「なんだよ、って言われても、それ以上でも以下でもねえよ。その写真が気にくわねえのか」
「お前と、写真、お前が撮った写真」
 「お前が撮った」にココはひとつひとつご丁寧にアクセントを置いた。写真をぴらぴらさせると、こちらにずい、と突き刺すように写真を返してくる。あら残念、最高のプレゼントだと思ったんだけど。俺はわざとらしく肩を竦めて、良い子の妖霊だから、素直に写真を受け取ってポケットに突っ込んだ。でもひとつ、引っかかる点がある。
「一緒に写ってた女は?」
「別に、しょうがない」
 ココの碧い瞳は、午前9時の窓の外を見つめている。南向きの窓から、朝日から幾分か強さを増した日光が差し込み、ココの銀髪に当たる。髪はきらきらと輝くが、この部屋は黒雲のもと、今にも落雷の音が聞こえてきそうなムードがたちこめていて、髪だけが世界から切り離されたようだった。きっと、俺の髪も。
「へえ、意外だな」
と零して、俺は足を組みなおした。「別に、リクはそういうやつだ、って知ってたし」と、全て分かっていたような横顔で、ココは瞬きをした。俺も、瞬きをひとつした。

 その夜、俺は思わぬところでエディブルフラワーの兄のヤツを見つけた。わけあって俺はありきたりな蚊の姿をして館をぷんぷん飛び回っていたのだが、暇になって、そういえばあまり覗いたことのない庭へたまたま行こうかと思った。
 戸締りのきちんとされていない、館のどの廊下の中でも一番ひっそりとした、洋館と別棟を繋ぐ渡り廊下の窓からぷうん、と顔を出して庭へ出る。ちなみに別棟はいつも鍵がかかってるので行けない。まあ、爆破すれば、行けるけど、な?俺もそんな、無駄なことするような頭の悪い妖霊じゃあないんでね。
 ぷうん、枯れかけて花弁がちりちりになっている向日葵の横を通る。ふわり、髪の毛を少し揺らすくらいの微風が吹いて、蚊の俺は小さい羽根に目一杯の向かい風を受け、風に逆らえず向日葵のしなしなの葉によろ、ともたれた。なんで俺、蚊なんかになってんだっけ。すう、と手頃なココの姿に変えて、こつこつと石畳を踏みしめるようにして地を歩く。
 月明かりに満ちた夜の庭に人っ子ひとりいなかった。小道の脇にはフットライトが整列しているが、スイッチは手動なのか、真ん前を通ってもうんともすんとも言わず灯りを点す気配はない。遠くに見える噴水も、水を出さずに静かにしている。さあさあ、風の吹く音はするが、虫も鳴いていない。きゃあ、と館の方からはしゃぐような声が聞こえた。ここは少々静かすぎる気もする。ただ単に夜だからか、それとも妖霊がいるからだろうか。花の匂いさえ、まったくしない。
 と、急に、甘い匂いがする。花だ。薔薇のようでいて、チューベローズのような、いや、ストックかもしれない、それともカモミールか、桜か。とにかく、一瞬にして、俺は色々な花の匂いに囚われたのだ。思わず匂いの漂ってきた方へぱっと振り向く。五メートル程後ろ、憂鬱そうなブルーグリーンの葉を茂らせた、ブルーへブンが三つほど並んでいた。こつ、とその裏へ歩み寄った。
 そこにフットライトはないが、外灯があって、夜でもその辺りを照らしていた。こちらの方に背を向けて、キャンバスに向かう茶髪の男がいる。たぶん、確実に、今日写真に取ったヤツだ。さっき花の匂いがしたのは、こいつの魔法だろうか。青年は小さな椅子に腰掛けて、筆を握っていた。それほど筆が進んでいるわけではないようで、時折、筆の軸がぴくぴく、と動く。なるべく気配は消していたつもりだが、ぴた、と男の手が止まり、静かに筆がイーゼルの端に置かれた。俺は右足を少しだけ後ろに引いたが、別に今ここから立ち去ったって、意味はない。茶髪の青年は振り向いて俺を見ると微笑んだ。
「魔法使ったの、気づいた?」
 さて、ここで問題になるのは、俺が魔術師のうずらの卵みたいなココとして振舞うべきか、冷静沈着頭脳派レノンドゥースとして振舞うべきか、だ。俺の発言次第でココとリクの関係は進歩するか後退するか決まる。このコバルトブルーの瞳にうつるのは、ココか、その使い魔の俺か。
「庭を歩いてただけだけど」
 とりあえず俺はココの口調を真似る。あれ、ココってこんなんだっけ。まあ、いいや。俺とココってだいぶ似てるだろう。
 俺は少し、相手の方へ近寄る。やや斜め後ろに立つと、キャンバスの絵が良く見えた。女の横顔が描かれていたが、この館で見た覚えのある横顔ではなかった。瞳は燃ゆる赤、長い睫、少し雀斑がある。唇は血色のよい桃色。髪は肩につくくらいのアッシュブラウン、おろしたまま。黒い帽子を被っている。結構、上手い。よく見たらかなり荒いが、なぜか、まとまって見える。印象派か。
「これ、誰」
「見たことない?僕の部屋によく来てるけど」
 リクは筆をまた持って、髪に手を加えていく。さらり、吐いた台詞は、なんだか興味深い。やっぱり女好きだな。
「絵を誰かに見せたこと、あんまりないんだよね」
 ふうん、と俺はポケットに手を突っ込んで返事をする。相手はパレットから青い絵の具を取って、少しずつ、茶色の髪の上に乗せていく。青を乗せたところから、だんだんと暗い茶色へと変わる。
「お前、付き合ってるやついるんじゃないの」
 かさり、ポケットの中で、今朝ココからつき返された写真と手が触れる。
「付き合ってるやつは、いない、ね」
 俺は立っていて、相手はこちらに背を向けて腰掛けているから、表情は全く見えない。が、言葉の区切れが、息のように自然に漏れた笑い声が、表情を語る。
 暫し沈黙が流れた。風も吹かないで、ただ時は無音のまま過ぎる。静けさを破ったのは、リクのふふ、という笑み。くるり、青年はこちらに身体を向けた。
「ココが何言いたいかはわかる」
 つ、と筆の後ろで俺のポケットを指した。思わず手をポケットから出す。ぱっと相手の顔を見た。目は暗くて何が映っているか、よく見えない。「でもさ」、と、口角がにいと上がったのは見えた。
「僕、本命チョコを誰かの前で見せびらかして食べるようなやつじゃあ、ないからね」
 それだけ言うと、相手はキャンバスに向き直った。俺は唾を飲んだ。何を言いたいか、さっきちらりと月明かりに反射した瞳の輝きでわかった。俺はこいつとは話をしたくなかった。こいつも、俺と話はしたくないだろう。俺はそっと、ここを立ち去った。
 来た道とは別のルートで、館の方へ戻る。ざわざわ、と木々が揺れたのを感じて、俺は足を止める。夜になって閉じているチョコレートコスモスの仄かなチョコレートの香りが鼻を掠めて、俺は深呼吸をした。満月の右側が少し欠けたような月の光と館から漏れる光で、ココの姿をした俺の影が地面にうっすら、出来ていた。俺はハーフパンツのポケットに右手を突っ込んで、石ころを一つ蹴った。写真の角が、ポケットの中で手に当たっていた。ココには何も伝えないでおこう。後でこの写真は燃やそうと思った。

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