あかいあじ


「ねえ、ヴァレちゃん、人肉っておいしいの?」
 ロッキングチェアが向かいで揺れる。メルトはそこに座っていた。彼女が前後に漕ぐのに合わせて、時折、ぎ、とロッキングチェアの木の一部分が鳴る。
「焼肉あんなに食べてたのに、まだお肉の話をするのね」
 わたくしはというと、真紅のふかふかの椅子に座っていた。まるで装飾が控えめな王座のようで、自分のいつもの特等席。特等席、と言っても、実質地下室には殆ど誰もこないので、書架の椅子は座り放題。だからこそ、自分以外に誰かがそこに座っているのは珍しい。膝下に置いた本のページをぺらりと捲って、彼女の方をちらりと見た。満腹そうなお腹に手を当てている。本を読もうとする様子は、ない。目が合うと彼女はにいと目を細めた。
「お肉を食べたから、よ!人のお肉も、食べられないことはないでしょう」
 まあ、そうね、とわたしは本に指を挟んでぱふ、と閉じた。古い本の、埃っぽくて甘い匂いがふわりとする。それを吸って、ぽつ、とわたしは言った。
「人肉を食べる文化があった地域も、あることにはあるわよ。今じゃ禁止されてるけど」
「味は?味はわからないの?」
「豚肉の味がするらしいけど、さあ、わたしにはわからないわ」
 ふうん、と彼女は頬杖をつく。いつのまにかロッキングチェアは揺れるのをやめていた。彼女はそのまま黙って、にこにこと笑っていた。真っ赤な唇が、地下室のぼんやりとしたオレンジ色の光で艶やかに光る。わたしは彼女から目を逸らした。

 でも、わたしはすぐに目線を戻すことになる。わたしはまだ、そのときのあの子の瞳の色の奥がわからない。ちろり、舌が、白い歯の奥で動いていた。
「あたしは、ロシアンティーのおんなのこの味はしらないけど、ヴァレちゃんの味は知ってるよ」

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