Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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「ねえ、なんで空が青いか知ってる?」
ふたりきりの書架は、とても静かだ。地下だから、風が吹く音も、外で降っているはずの雨の音も聞こえない。もしかしたら、雨は降っていないかもしれないけれど。天気予報はよく外れる、とあの子が言っていたから。
あたしは静かなのが嫌いだから、向かいに座るヴァレちゃんに、ふと思ったことを訊いた。ちなみにあたしは、その答えを知らない。
そしたらヴァレちゃんは、間髪入れずにこう答えた。「今は、曇っているわよ」
「それは、そうだけど。いや、もしかしたら晴れているかも」
「晴れてないわよ。貴女、今日の降水確率は80%って言ってたの、見てなかったの? 80%よ、八割よ、降らないにしても曇りだわ」
「天気予報は信用ならない、って言っていたのはだあれ?」
「さあ、どこのお馬鹿さんかしら」
もう、ヴァレちゃんったらそんなことばっかり言って。あたしは頬を膨らませるけど、ヴァレちゃんはそれに見向きもしない。むん、あたしの頬はみるみるうちに膨れ上がる。

「で、なんの話だったかしら?」
「なんで空が青いのか、知ってる?」
「知ってるわよ。常識でしょう」
常識なのかあ。あたしは感心して、ほへえとかはへえとか、変な声をあげる。ヴァレちゃんは呆れたようにつと息を吐き出して、開いていた本をぱたりと閉じた。顔を上げる。髪を耳にかける。綺麗な仕草だった。
「貴女は、知ってるの?」「なにを?」「なにをって、空が青い理由よ」
知っているから訊いてきたんでしょうけれど、とヴァレちゃんは言う。知らないわ、とあたしは答える。ヴァレちゃんはまた息を吐く。
「じゃあ、なぜだと思う?」
なぜ、なぜ? なぜ空が青いのか? 改めて考えると、少し難しかった。でもすぐにぴんと思いついて、それを話した。
「ブルーハワイを、空にぶちまけたからじゃないかしら」
ブルーハワイ、と訊いて、ヴァレちゃんは、なにかを思い出したような苦い顔をした。「本当にそう思うの? やっぱり阿呆ね、貴女」
筋金入りの阿呆よ、救いようがないわ、とヴァレちゃんは繰り返す。
それからヴァレちゃんは、空が青い理由を、丁寧に話してくれた。その話は難しくてあたしにはあんまり理解できなかったから、いつもよりほんのちょっと楽しそうに話すヴァレちゃんをじっと眺めていた。
「つまり、そういうことよ。わかった?」
「うん、わかったわ」
あたしはこくりと頷く。ヴァレちゃんも満足そうに頷く。「これでひとつ、賢くなったわね」
そうだねえ、とあたしは返事をする。実際、ヴァレちゃんと出会ってから、あたしはだんだん頭が良くなっているように感じていた。
一階に戻ってお茶にしましょう、なんて話しながら、書架を出て一階を目指す。

一階に続く扉を開けると、あふれんばかりの光があたしたちを待っていた。窓の方を見ると、そこにはきらきらとした青空が広がっていた。
「ねえ、見て、ヴァレちゃん。晴れてるわ!」
そう言って窓を指差すと、ヴァレちゃんはふふと笑みをこぼした。ように、見えた。
「ほら、だから言ったでしょう」
天気予報は信用ならないのよ、とヴァレちゃんが言った。

 

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