ネクタイ


※リクココ表記ですがココリクかもしれない??のでココリク地雷かも〜なお方は自衛をお願いします(土下座)

---

「リク、絶対ネクタイした方がいいって」
 昼下がり。なんかどっかのカフェ。てきとーにお洒落なやつ想像してよ。ほら、天井についてるでっかいファンが夏でも冬でもおかまいなしに、ゆったりぐるぐる回ってるやつ。床はもちろんフローリングね。それから窓際の席の、足の先がくるんってなってる丸テーブル。それを僕とココが挟んでる。今日の天気は晴れ、通りに面した窓の外の人通りも多い。ココが頼んだのはアイスカフェオレ、僕はロイヤルミルクティー。さっき飲んだけど、ちょっとこの店のロイヤルミルクティーは苦めにつくってあるみたいだ。
「なんで」
 ココがストローでカフェオレを吸った。氷と氷の間からカフェオレがどんどん消えていく。透明な氷がグラスに残されていく。僕はちまちま、ミルクティーを飲んでいる。熱すぎるわけじゃない。むしろ熱い方がおいしくて好きだ。だけど、なんだか苦い。知らないロイヤルミルクティーの味がする。砂糖をいれればいいんだけど、既に半分飲んだのでもういいかな、という感じがしてしまっている。砂糖を入れる気にはなれない。
「いや、なんか、似合うかなーみたいな」
 ココはそう言って肩を竦めて、背もたれにもたれた。「絶対」した方がいいと言う割には、素っ気無い返事である。まあ、日頃からこんなやつだけど。
「まあ、考えとくよ」
 僕はひとくち、苦めのロイヤルミルクティーを飲んだ。そのまま別の他愛ない話をして、僕らは館へと帰った。

「今日はネクタイしたんだ?」
 昼下がり。なんかどっかのカフェ。てきとーにお洒落なやつ想像してよ。あ、さっき想像したのと同じところだよ。気に入ったから、またふたりで来た。ほら、天井についてるでっかいファンがゆったりぐるぐる回ってるやつ。床はもちろんフローリングね。それから窓際の席の、足の先がくるんってなってる丸テーブル。それを今回も僕とココが挟んでる。ココが頼んだのは今回もアイスカフェオレ、僕もやっぱりロイヤルミルクティー。この店のロイヤルミルクティーはちょっと苦いというのを前回来たときに習得したので、ソーサーについてたスティックシュガーを一本まるまるいれたら、なんか甘くなりすぎてしまった。
「まあ、たまにはいいかなあって」
 ココがストローでカフェオレを吸った。氷と氷の間からカフェオレがどんどん消えていく。透明な氷だけがグラスに残されていく。僕はちまちま、ミルクティーを飲んでいる。あまい。あますぎる。なんだこれ。スティックシュガーってこんなにあまかったっけ。
 僕が飲んでる紅茶の話はおいといて、僕が今日つけたのは、ペイズリー柄のグレーのネクタイ。ペイズリー柄とかあんま使ったことないから不安だ。ネクタイ自体普段からつけないし。
 あまいと思っていた紅茶は、ちょっとした沈黙の間を埋めるように少しずつ飲んでいたうちにそれほど違和感を感じなくなってきた。ティーカップを口に近づけながら向かいのココをみやる。彼は冷えたグラスに右手を添えながら、頬杖をついてぼうっと前を見ていた。徐にココが僕のネクタイを指差して口を開く。
「なんか、イケメンって何でも似合うな」
 口元に近づけていたティーカップを下ろしながら僕は2回ほど瞬きした。に、と口が緩む。
「何それ、惚気てくれてるの?」
「あほかよ」
 ココはそう言って眉間を寄せてストローを噛み、顔をそらした。あほかよ、だってさ。あほでごめん、なんて言わないけど。
「ココもリボンの色くらい変えたら?」
 僕はココの胸元のスカーフを指差した。彼はいつもセーラー服だ。夏と冬で袖の長さは変わるけど、リボンの色はいつも同じ、黒。
「たとえば?」
 ココが反らしていた顔をこちらに向けて、それから自身のリボンにちらりと目線をよこした。銀色の髪が揺れる。僕は紅茶を口に含む。
「赤とか」
「赤は、やだな」と、ココは目を伏せて手をいじる。
「なんで?」
「だっておまえのシャツの色じゃん」
 僕は思わず自分の胸元を見た。ワインレッドのシャツである。「なにそれ」
 ココは顔を上げて、カフェオレをひとくち飲む。「まあ、おれのこのリボンの色は耳の色だから」
「じゃあリボンじゃなくてスカーフにすれば」僕は頬杖をついた。
「おれはいいの、リボンで」ココがグラスを置いた。
 僕はココのリボンに手を伸ばしてみる。「スカーフの方がかわいいよ」
 しかし、その手はぺち、とココにしばかれてしまった。はあ、と溜息をついて、窓の外へとココは目線を投げた。おまえの考えなど浅はかだ、とでもいうような目線を。
「それは嘘、おまえがどうでもいいと思ってる女に対して言う嘘」
 その言葉に僕の口元は思わず緩んだ。ちょっとにやにやしちゃって、紅茶をうまくのめない。
「うん、嘘、よくわかったね」
「おまえやっぱりえげつないヤツ」間髪入れずにココが呟いた。
 ココは自分の両腕をさすって首を亀みたいに縮めた。そんなに急に寒くなるほど僕はえげつないやつらしい。えげつない僕は、ティーカップを口に運んでからこと、とソーサーに置いたと同時、
「スカーフの方が、っていうのは嘘だよ。ココはもともとかわいいから」
と言った。彼の青い目の瞳孔がぱっと開いて、小さくなって、それから彼は目を伏せる。頬は瞳の色とは対照的に、うっすらと赤い。僕は思わずに、と笑う。
「……えげつねえ」
 ちッ、とココは舌打ちして顔を顰めながらカフェオレを飲んだ。いつのまにかグラスのカフェオレは随分減っていて、ココがストローから吸うとずご、と音がする。僕のティーカップの中身ももう殆どない。ぐい、と僕は残りを一気に飲んだ。最後まであまかった。
「そろそろ行く?」
 ん、とココが軽く頷いた。
「行こ」
とココが立ち上がったので、僕も腰を上げた。椅子にかけた上着を取ろうと、僕は上半身だけ後ろを向いた。
「あ、待って」
 というココの言葉に、僕はなに、と彼の方を向きなおす。僕のネクタイにはネクタイピンがついておらず、ぱらりとネクタイがその向きなおった反動で揺れた。それを待ち構えていたかのように、ココは机に左手をついて、右手で僕のネクタイを優しく掴んだ。なんだ、と思った。なんだ、ネクタイって、そういうことか。うそつき、と言おうと思ったがやめた。似合うと思っただけ、とかうそつきやがって。僕はココの瞳の、あおみがかった自分の像を見つめた。それから僕は瞼を閉じた。ネクタイを引っ張られる力に身を預けた。ロイヤルミルクティーの甘さに慣れすぎたからか、それともいつも瞼など閉じる側でないからか、カフェオレの味のする唇と自分のとが重なったときにはコーヒーの苦味をいつもより、記憶の中のカフェオレより強く感じた。かすかな苦味を僕に残して、ココはネクタイを掴んでいた手を離した。首元が緩む。ぱたりとネクタイが僕の胸元に戻る。僕らの距離も戻る。
「あま」
 ココは上唇を舐めて言った。僕は彼の頬がすこし赤いのを見逃さなかった。
「砂糖、どんだけいれたの」
「ちょっとだけだよ」
 僕は空のティーカップの横でぺらぺらになったスティックシュガーの紙の袋を見やってから、背もたれの上着を取った。うそつきは、お互い様。

TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -