不法占拠


 目が覚めた。自室にはもう夜の暗さはなく、窓から朝日が差し込んでいる。もぞ、と布団から腕を出した。寒くてすぐに暖かい布団の中に引っ込めた。
 僕は朝は苦手ではない。が、朝っぱらから寒い布団の外に飛び出せるほど元気と活力の塊ってわけでもない。何より今日は午前中は特に用事はないし、館の仕事もあるけどそんなに今すぐ起きなきゃいけないってわけでもない。僕は布団から出ずに再び目を閉じると、ぬくぬくの布団の中でもぞもぞと寝返りを打った。
 寝返りを打つ過程で何かが膝に当たったので、なんだ、とゆっくり目を開けた。聞いて驚け。僕は驚いた。すやすやと静かな寝息をたてて僕の隣で眠っていたのは、銀髪が少しぼさっとしてる、黒い猫耳の、あのココだった。全身がガッとかたまったのを感じる。髪の何本かは逆立った気がする。いや、こいつ、いつからいた?昨日の夜の、いつ?まあ、一応付き合っている――とはいえ、記憶もなく一緒に寝たとかなんてこわすぎる。慌てて自分が上下の服をちゃんと着ているか確認した。普通にいつもの寝巻きを着ていて、安心した。いや、根本的には何も解決していないけれど。
「ちょっと」
 僕はココの肩を揺さぶった。うぐ、とココは顔を顰めて起きた。眠たげな青い瞳をこすりながら、あまり口を動かさないで喋る。
「……リク、おはよ」
 彼はちょっと身体を起こした。僕はそこでココが衣服を着ていないことに気づく。かけ布団から出て露になった肩は、見るだけで寒くなる。
「なんで裸」
「上半身だけだし」と、ココは肩を竦めた。さむ、という声も漏らす。いや、裸なら寒いに決まってるだろう。「そういうことじゃあないでしょ」と咎めるとココはに、と笑った。「知らねえの?中央アジアの厳しい冬の夜を乗り切るには服着て布団にくるまるより裸で直に布団と肌が接した方がいいって」
 ぎう、とココは僕の布団にめいいっぱいくるまった。人の布団であったかそうなこと。
「ここは中央アジアじゃない」と、僕は布団をはぎとってやった。もちろん、僕自身に乗っかっていた布団もなくなっちゃうけど。うぎゃ、とココは全身を縮めた。僕も寒さに少し身体を震わせる。図々しくも彼は口を尖らせる。
「さみぃ、布団戻して」
「誰のベッドだと思ってるの」
「リクの」
「わかってるんだったらどいて」
 僕はココをぎうぎうとベッドの端まで追いやった。どてん!と大きめの音を立ててココがベッドから落ちる。落ちるといっても、そんなに高さはないけど。
「うぎゃ、いってぇ」
 ココがいなくなって広々としたベッドの上で寝返りを打った。さみぃさみぃ、と呟きながら両腕を摩っている彼の隣で僕は悠々と布団に包まる。先程までココが寝ていたところには、まだ彼の体温が残っていた。顔をうずめると、どことなく、ココのにおいがした。僕は小さな声で呟いた。
「――やっぱここで寝ててもいいよ」
「よっしゃあ」
 ココはぱっと顔を輝かせて、僕のベッドに乗り込んだ。一気にせまくなったけど、同時に布団がちょっと温かくなった。ココのシャンプーのにおいも銀髪から、した。ちょっとだけ暖かい朝だった。

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