「クザトくん、何してるの」

 しんと静まり返った教室に凛とした、どこか冷たい声が響く。声をかけられた当人はぴくりと肩を揺らしただけでなんの反応もしない。つまらない。

 「窓の外ばっか見ちゃってさ、そんなに夢中になるものでもあるの?──ああ、リリィ、とか」
 「っ」

 怯えた瞳がこちらを向いた。恐ろしくその言葉に怯えて、震えて、今にも泣き出しそう。まあ思っていた通りの反応だから驚くことも無いまま、すたすたと歩みを進める。
 そのままクザトの机まで辿り着けば、彼の視線を辿るように窓の向こうへ目を向けた。

 「──ゆうひセンパイ、手あったかいですね」
 「そうか?…リリィの方が暖かいと思うけどな」

 ふと聞こえてきたのは、何度も聞いた妹の声と最近仲良くしてるらしい男の声。クラスメイトだっけ、覚えてないけれど。きっと二人は付き合っているのだろう、まだ話は聞いていないが、隣にいる彼を見れば容易に分かる事だった。

 「嫌だったら見なければいいのに」

 そんな辛そうな顔してさ。なんて言葉は飲み込んだ。彼自身が一番分かっているだろう。どうしようもない空気を断ち切るように、空いていた窓を閉めた。妹から発された「好き」はかき消されたはず、だ。

 「…帰ろうよ、裏門から出たら会わないと思うから」

 視線は俯いたままだ。交わることも無い、一方通行。それがなんだか無性にざわついて、乱暴だけど無理やり顔を上げさせた。

「…クザトくん」
「───リ、ィ」

 ぼう、と揺らめいた瞳が僕をすり抜けていく。僕に重ねた妹を見ている。違う、僕は。

 「…僕はリクだ、リリィじゃない。…ちゃんと僕を見てよ、クザト」

 両頬に当てた手に力が篭もる。それに一瞬だけ目を閉じた彼は浅く息を吐いた。それから交わった視線はもうすり抜けることはなく、僕の目だけを見つめていた。

 「…ごめん……ごめん、リク」

 震えた声で僕の名を呼んだ。手を離せば崩れ落ちてしまいそうな彼は、ゆっくりと傾いて僕にもたれかかる。それを僕は振り払うことも無く、ただ手を回して抱きしめた。撫でるわけでもなく、きつく抱きしめるわけでもなく、ただ、彼の背に手を回していた。

 …ああ、僕も彼も、不毛な恋をしている。




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