花あかり、妖しく
夜の公園はいつもどこか妖しいが、今日はいつにもましておかしい雰囲気だった。きっと、桜が満開であるせいだ。電灯がぽつん、と公園の地面を弱々しく照らしていて、その奥にパンダのスプリング遊具がぼわっと浮かび上がる。公園を取り囲むようにして植わっている桜の花は、灯りを照り返していて、ぼわっと自ら発光しているかのようだ。
オレとアンディはブランコに乗って揺れていた。古いブランコなので、ちょっと動くたびにぎい、と言う。
「オレがいなくなったらどうするつもりなんだよ」
ぎゅ、とブランコの鎖を握ると、風が吹いた。胸がつまるほどの桜のざわめきが聞こえる。こんなこと、聞かなきゃ良かった。でもしょうがない。オレのせいじゃない。花明かりがオレに言わせた。春の宵がオレに言わせた。
数分前、アンディを夜の散歩に連れ出した時のことを思い出す。無性に外を歩きたくなったので、訳も言わずアンディを館から引きずり出した。今ならわかる、たぶん、さっきの質問をさせるために春に巣食う魔物がオレを呼んだんだ。こんなことを聞いても意味がないのに、言わされている。絶対にアンディは、ありきたりのことは言わない。アンディが長い脚で地面を優しく蹴って、ブランコがぎ、ときしむ音がする。
「案外、それでも生きていくものなのかもね」
やっぱり、こいつは、期待していた言葉を返さない。大事なところでそう。自分の言いたいことだけ言って、オレの言ってほしいことは言わない。当たり前か、操り人形じゃないんだから。オレは、オレにびくついている他人じゃなくて、アンディだから好きになったのに。
「オレは、アンディがもし死んだらッ……――」
「もし死んだら、何?」
ぴた、とアンディはブランコを漕ぐのをやめた。薄闇の向こうでぼんやりと笑っている、ように見える。
「もしもの話をするのは、嫌いなんだ」
嫌いなんだ、という声は意外とあたたかかった。ふわ、とアンディは立ち上がる。
「まじないでもしようか。願い事を願いながら、桜の花びらを捕まえられたら願い事がかなう、っていう」
アンディはそう言うと、子どものようにブランコの柵を飛び越えて、桜の木の下に歩いていく。オレもついて行かざるをえない。オレがついてこいと言ったのに、いつのまにか逆になっている。でもいいんだ。
電灯があるものの、薄暗くて花びらを捕まえるのは困難だった。あと少しのところで、花びらはひらりと身をかわして、指と指の間をすり抜けていく。チッ、とオレが五回ほど舌打ちをした頃、あ、とアンディが声をあげた。
「ねえ見て」
アンディの大きな手の中に、血の透けているような花びらが一枚乗っている。そよ風に合わせて、手のひらの上で花びらはちろちろと踊っていた。願い事がかなう、という状況にしては、気の遠くなるほど静かな情景だった。
「願い事は」
「しあわせ」
アンディはに、と口角を上げて笑っていた。それが怪しくて妖しくて、オレはぞわりとした。もう一度舌打ちをしながら、アンディの手からその花びらがこぼれていくのを見つめていた。