メモ:単四電池買う


 雛ぱるが同棲しています!!!
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 部屋に太陽の光が差し込んだから、自然に目が覚めた。側に眠るパァルを見ると、まだ眠っているみたいだった。布団から足を出してみれば、つんと冷たい。それもそのはずだ。もうじき冬が来るのだから。寝る前に脱いだ靴下を探そう。片方はすぐに見つかったけど、もう片方はなかなか見つからない。おそらく掛け布団の奥の方に挟まってどっかに行ったんだろう。あまりもぞもぞ動きすぎるとパァルを起こしてしまうかもしれない。寝室は和室だけれど、フローリングのリビングではどうせスリッパを履くのだからいいでしょう。布団から出て、すこし乱れた布団を彼女にかけ直してあげた。パァルが、もぞりと寝返りを打った。

 胃が少し重たい。胸焼けとはちがうけれど、重たくぐるぐるとする感覚がある。昨日はパァルの誕生日だった。わたくしは駅前のケーキショップで、6種類のケーキを選んで、一つのホールケーキみたくしてもらった。パァルは、わたくしが見たことのないものを食べていると必ず一口要求するのだ。だから、色々な味が楽しめる方が良いかと思って買ってみた。わたくしの思惑通りパァルはすごく喜んで、寝室からカメラを持ってきた。撮りやすいようにとわたくしが少し避けると、パァルは「雛伊さまと一緒に写ってるのが撮りたいんですー!」と言った。照れくさかった。

 洗面所に行き、とりあえず洗濯物を洗濯機に入れてから、顔を洗う。鏡裏の収納は、左側がパァルのもので、右側がわたくし、真ん中は共有のものだ。パァルが雑貨屋で買ってきた歯ブラシスタンドから竹製の歯ブラシを取って、歯を磨く。歯を磨きながら洗濯機のボタンをぽちぽちと押して、キッチンに出て冷蔵庫のカレンダーを確認。
 パァルと住むまでは、歯磨きをしながら歩くなんて、危ないし、ありえないと思っていた。パァルがあまりにもナチュラルに移動するものだから、驚いた。それでも今はすっかり日常になっている。癖って、本当にうつるものね。

 昨日の、十一月九日の欄には、桃色の水性ペンで『パァルの誕生日』と書かれている。パァルの字は、線がすっと真っ直ぐ伸びて、交点がうつくしい。丸っこくて読みにくい字を書くのかと思っていたけど、癖のない、清々しい文字だ。やはり日本人は字が綺麗なのだ。
 今日の欄は『パァルの誕生日の次の日!』となっている。ペンの色が違うから、別の時にふと思い立って書いたのだろう。かわいい。

 洗面所に戻ってうがいをしてから、またキッチンに戻って、やかんでお湯を沸かしはじめる。食器棚の引き出しを引けば、色々な種類の茶葉が入っている。いつも飲んでいる日本茶は、通販でまとめ買いした大袋を少しジップロックに分けて入れているし、お土産でもらった変わり種のものは未だ封を開けていない。昨日、せっかくケーキを食べるのだからと貰い物のお高い茶葉の封を切ってみたので、それを飲むのも良い。せっかくだからそうしよう。だって今日は『パァルの誕生日の次の日!』なのだし。

「ひないさま…?」
 マグカップを出してくるついでに、昨日の晩洗った食器の水滴を拭っているとわたくしに、声がかかった。パァルが起きてきたようだ。眠たそうに目を擦っている。パァルはすぐ目を擦るから、都度注意をするのだけど、「はあい、雛伊さま」と言うばかりでなかなかなおらない。返事は良いのに。まるで小さい子供の相手をしているみたいだ。
「おはよう、パァル」
「うん、おはようございます、雛伊さま」
 へへ、と笑いながらパァルがかわいくお辞儀をした。寝起きで体幹がまだふにゃりとしている。
「あたし、顔洗ってくるから、そうしたら朝ごはんにケーキたべましょ、ね」
 パァルがひらひらと手を振りながら、わたくしの横を通って、廊下の奥に消えた。昨日六つあったケーキは、パァルが二つ、わたくしが一つ食べて、まだ冷蔵庫に残っているのだ。料理の分担は大体半分くらいになっているけど、いつも朝ごはんを作ってくれるのはパァルだ。一緒に住んでる人に朝ごはんを作ってあげるのが憧れ、らしい。そのくせによく寝坊をするのだから、本当に面白い。
 パァルの作る料理は美味しいのか?、これが、美味しいのだ。動画サイトで色々とレシピを漁るのが楽しいらしく、気が向いたらお菓子を作ってくれることもある。

 わたくしがお茶を淹れ終わり、マグカップを持ってリビングへ向かうのとほぼ同じタイミングで、パァルがキッチンに戻ってきた。コンタクトを入れたようで、目がさっきよりもうるうるとしている。髪を低く一つに結んだパァルがキッチンをくるくる動きまわりながら食器を用意している音が聞こえてくる。

 食卓の座って、十秒ほどぼーっとしてから、少し遠いところにあるテレビのリモコンを手に取った。テレビをつけようとするが、電池の残量が怪しく接続が悪い。やっとついたと思ったら、いつも見ている番組はやっていなかった。そうか、今日は日曜日なのだ。
 そうこうしているうちに、トレーを持ったパァルがやって来て、わたくしの前にお皿とフォークを置いてくれた。ありがとう、と言うと、いえいえー、と言いながらパァルも椅子に座る。
 パァルがケーキの入った箱の上側を開けても、わたくしが手をつけないでいると、彼女が、「食べないんですか?」と問うた。
「あまりお腹がすいていないから、パァルの好きなのを食べて」
「えー!いいんですか
 パァルはしばらく三種類のケーキをつめて、チョコケーキをそうっと取り出した。チョコケーキは皿に着地したかに思われたが、すぐに、力なく、ぽてっと倒れる。
「あはは、倒れちゃった、まあ味変わんないし」パァルが机についたチョコを拭きたそうにしたので、ウェットティッシュを取って渡してやると、「ありがとうございます」と言って照れくさそうに受け取った。

 「誕生日の次の日の朝ごはんって、ケーキが食べられるから、特別で、良くないですか」
 チョコケーキを一口サイズに切り分けて食べながら、パァルは言った。
「そうね、なんだか少し分かるかもしれない」
「普段朝ごはんにケーキなんて食べないから、テンションあがっちゃうっていうか、あ、今度の雛伊さまの誕生日ケーキはあたしが作りますね」
 少し、沈黙が流れた。パァルは、視界の端に入った、チョコの付いたウエットティッシュが気になったようで、茶色い面をくにくにと押し込んでいる。「そう、」
「なんだか、自分の誕生日の時だけ作ってもらうのが申し訳ない気がするけれど」
「あたし的に、買ってきてもらった界の一番はもうとられちゃったから、次からは作るんですよう__あたしがあのお店のケーキ食べたいって言ってたの、雛伊さま、ちゃんと覚えててくれたなんてうれしい」
「パァル、口の端にチョコついてる」
「えーうそ、どこどこ」
 ぺちゃくちゃとお喋りをしながら、しばらくしてパァルはチョコケーキを平らげた。そしてケーキの箱を自分の方に引き寄せると、また、二つ目のケーキを選び始める。こんなに楽しそうなパァルが見られるなら、毎日『パァルの誕生日の次の日!』でも良いかもしれない。

「あーそういえば、今日どっか出かけますよね、どこ行きますか?」
「そうね、どっかで電池を買わないと」

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