その距離感


 週末のお昼って、なんでこうもつまんない番組ばかりやっているの。よくわからない昔の海外映画だったり、人気番組の総集編だったり、路線バスであちこち巡る、みたいなものだったり。あ、路線バスの旅はちょっぴり面白いかもしれない。でも人の旅を見るくらいなら、自分であちこちに行きたいかなあ。やっぱり、自分の体験したものじゃないと、なんだかるるるんってしないじゃん。

 わたしは退屈になって、椅子に座りながら足をぶらぶらとさせた。食堂の椅子は深く腰掛けても床に足がつくけど、談話室のダイニングチェアはそれよか脚が長くて、そうとう浅く腰掛けないと床に足がつかない。海外規格?みたいなものなのかわからないけど、この館にある家具は総じて大きめで、普通に運ぶには苦労しそうなものが多い。この前なんて、サイドテーブルと壁のすきまに落ちたヘアピンを取ろうとして動かしたら、床を傷つけてしまった。それとなく誤魔化しておいたのに、誰かめざとい人がいたのか、1週間くらいしたら補修されてたけど。
 テレビ画面の右下に表示される時刻を見ると、じきに14時半きなるらしかった。もう少しでおやつの時間だけど、わたしが食べているのはお昼ご飯。ああ、わたしとまーくんがステンドグラスの掃除を始めたときには10時くらいだったはずなのに、上の方を拭くための脚立がないじゃん!と言ってあちこち探しまわったり、桟に溜まったほこりに降られてブラウスを汚したりしていたら、思ったよりも時間が経ってしまっていた。知らないうちにお昼ごはんの時間を過ぎてしまって、わたしたちが戻った頃には、ラップのかかったハンバーグプレートが、二人分、テーブルの上に残っていた。

 まーくんって、いつも緩慢に動いているけれど、食べるのは意外と早いみたい。みんなでごはん食べる時も、大概いちばん先に食べ終わるのはまーくんで、あとはぽけっとしたり人の話に相槌を打ったりして待っている。食事じゃなくても、街に出て用事を済ませた後も、くたくたに歩き疲れるまでは辺をうろついたりするのに付き合ってくれる。絶対に人をおいて行ったりはしない。それってなんだか、ちょっと嬉しい発見だ。

 「ねえ、まーくん、これ食べて」
 わたしは気持ち猫撫で声でまーくんの方へプレートを寄せた。まーくんはとっくにハンバーグプレートを食べ終わって、よくわからない海外映画を見ていた。途中から見たせいであまり詳しい内容は追えないけど、どうやらお姫様と従者の禁断の恋を描いたものらしい。びみょうにせつない雰囲気の話だ。まーくんは時折目を擦りながらテレビのほうをじっと見つめているけれど、本当に映画を“観て”いるというよりかは、猫が動くものを追うように、ただ視界に入ったものを追いかけているようだった。
「これを、食べてほしいの」
 わたしはもう一度まーくんに言った。まーくんはいつものんびりしてるから、わたしの言葉はたいてい1回では届かない。だからわたしは、まーくんに2回目の言葉を投げかけてみる。そうしたらまーくんの生きている時間が、わたしの時間においつくように思う。その時差の分損をしても、まーくんになら、構わないのかも。

 よいしょ、と言って、まーくんは体をこちらに向けた。まーくんの、いや多分、まーくんのシャツの柔軟剤とか、身に付けてる香水の香りなのかな、とにかく、瞬間的にまーくんがふんわりと香った。ちょっぴり刺激的な香りだ。
 まーくんはわたしのフォークに刺さった【これ】を一瞥すると、「うん」と言って口を開けた。わたしはまーくんの口に【これ】を放り込む。なんだか餌付けしてるみたい。素直なまーくんは、口に放り込まれたものをもぐもぐと咀嚼した。まーくんが噛み終えて飲み込むまで、まーくんはずっとわたしの瞳を見つめていて、それがなんだか気恥ずかしい。さっきは『まーくんは映画を別に“観て”いるわけじゃない』って思ったのに、いざ自分がまーくんの視界に入ると、くっきり見つめられているように思えて、そう思う自分がまた少しむず痒かった。

「なあに、これ」
「これはね、ベビーコーンだよ。まーくんのプレートにも乗ってたでしょ?」
「のってたかなあ、のってたかも」
「あはは、まーくんって、すぐ全部忘れちゃうんだね。わたし、ベビーコーンって苦手なんだよね、なんだか口の中でぶにぶにして、きもちわるいから。」
 わたしがそういうと、まーくんの表情筋がふにゃりとゆるんだ。「なあんだ、」

「レイちゃんの好きなものだから、ぼくにお裾分してくれたのかと思っちゃった」

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