だから。


星空は嫌いだ。あれは綺麗すぎるから。
彼のことも嫌いだ。だって、綺麗すぎる__





「 リコットちゃん、そんなところでどうしたの?体冷えちゃうよ 」

夕御飯も終わり、各々が余暇の時間を楽しんでいる時。僕は夜風に当たろうとようとふらりとベランダに出たところ、一人のお嬢さんに先を越されていた。反射で甘言をひとつプレゼントする。僕だってベランダに出ているのになんだか変な感じだなあとも思ったけど、出てきた言葉は元に戻せない。さっさと諦めて相手の反応をみた。分かりきっていたことだけど、手摺に片腕を任せちょっと振り向いた彼女の顔は不機嫌そうだった。ごめんね。建前を心の中で呟いた。

「 僕がどこにいようと勝手でしょう。それに僕は来たばかりなんですよ、リクさん 」
「 ……ん、そっかぁ 」

嘘だ。僕はちょっと笑った、かもしれない。少し震え気味の声に組んでいた手。彼女が今先刻来たのではないことは明らかだった。とはいえ今は七月、大方お風呂の後に髪の乾かしかたがいまいちだったとかで冷えているのだと思う。そう指摘しても良いんだけど、_僕は今までリコットちゃんが眺めていた空へと目をやった_満天の星空、とでも言うのだろうか。星はあんまり詳しくないけど、あの赤いやつは蠍座のそれだった気がする。リコットちゃん、何座だったっけ。…風が吹いた。

「 あの、いつまでここにいるんです? 」

迷惑そうな声色を隠そうともしないで僕に言葉を投げるリコットちゃん。そこまで言うと彼女はまた星空に目を戻してしまった。もう飽きられちゃったかなあ。残念みたいな表情になっても、彼女が見ないなら意味もないかな。僕は足元に視線を落とし、もう一度リコットちゃんへと向けた。そのシルエットが震えているのを見てとると、自分用に持ってきたブランケットをふわりと彼女の肩にかけた。リコットちゃんは肩を跳ねさせて驚いたけれど、僕の前だからか寒さの為か声は押し殺しているみたいだった。さて。彼女にあーだこーだ言われる前に、先手を打って僕はその場を立ち去った。

「 じゃあね、早めに戻りなね 」
「 …… 」

相変わらずだなあ。その後僕は自室に戻ると充電の終わったスマホを立ち上げて、溜まったLINEの返信を始めた。珍しく切れてしまったスマホの電池を充電するだけの時間。それだけの時間。だった。





「 じゃあね、早めに戻りなね 」
「 ………?……っ!! 」


僕はずっと意地を張り続けていたのも忘れて、焦りながらがばっと振り向いた。けど、もうそこにリクさんはいなかった。廊下あたりまで追い掛ければどうにか間に合うかも知れないけど、( また自尊心が起き上がってきた )その頃には僕の息は切れてしまっているだろう。僕はそうまでして何をするというんだ。ありがとうの一言くらい。さっき。言えただろう。理解してはいるのに、心は堂々巡りを止めずに鼓動だけが急いで行ってしまう。なんて面倒なんだろうな、これ。…風が吹いた。けど、ブランケットのおかげであんまり寒くない、な。空を見上げると、とても綺麗な星空だった。嫌いだ。だいっきらいだ。…そうでも思わないと、やってられない、だろ。だから。





「 自分用に持ってきた、ねえ。 」

ブランケットには杏の香りがついていた。


だから?


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