703 ROSE


「なんでわたしといつも一緒なの」
 あたしは目をぱちくりさせた。いつもの、ぴくりとも笑わない、凛としてて、絶対頬を触ったら冷たいなと確信できるような、きんと冷えた横顔でヴァレーニエは窓の外を見ている。手元を見ずに、彼女の読みかけの文庫本には栞が無駄のない動作で挟まれた。窓の外では少しだけ色づいた木の葉が揺れている。どうやら風が吹いているらしい。今日は涼しいのだろうか。
「そんなの、ヴァレちゃんは絶対聞いてこないと思ってたなあ」
 彼女のいつもいる書架の一角、丸い机を挟んだヴァレちゃんの向かいで、あたしは特に何か書物を読んでいるわけではなかった。使うのか使わないのかよくわからないような、そこらへんの裏紙に落書きをして時間を持て余していた。これも有意義な昼下がりの時間帯の過ごし方だと思うの。こんなことヴァレちゃんに言ったら眉根を寄せられるだろうな。「息抜きとかそういうのを否定はしないけど、あなた、息抜きするような息もないでしょ」とか、なんか、頭こんがらがるようなこと言われそう。ヴァレちゃんもいっつも本読んでるだけなのにね!なんて思ったことは内緒ね。
 うーん、と手を前方に突き出して伸びをすると、手に机がどかんと当たって、ころころころ、かたんとピンクの色鉛筆が机の丸い縁から転げ落ちた。まったく、なんで色鉛筆も机も丸いのよ、丸かったらいいってわけじゃないのよ。む、と床の色鉛筆に手を伸ばすと、さっとヴァレちゃんが色鉛筆を拾って机の上に置いてくれた。円柱状の色鉛筆はぴくりともせず、そこに乗っかったままでいる。ピンクの地に金色の文字で「703 ROSE」などと書いてある面がきらきらと日光で眩しくなる。そっと、その色鉛筆を右手の人差し指と親で持ち上げて、眺めた。
「じゃあさ、あたしがヴァレちゃんと一緒にいる理由の703番目はわたしが言うから、1番目はヴァレちゃんが当ててよ」

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