Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙
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いつからだろう。食べ物の味がしなくなった。好きだったエナジードリンクもただ炭酸がしゅわしゅわと弾ける炭酸水になった。好きだった白身魚もただ粘土を食べてるかのように味がしない。まぁ粘土を食べたことなんてないんだけどさ。
最初はラー油とか辛いものの食べ過ぎかなって思ったんだけど、二、三年も続けばそうじゃないってことぐらい分かる。かといって病院にいったりするのも面倒ではぁと一つため息をつき、机の上においてあった翼を授けてくれる飲み物を手に取ると少し軽くなってる気がした。まぁ気のせいだろうとそのまま口に含むと、甘酸っぱいラズベリーのような味がした。思わず缶を落とすと慌てたようにクロエさんが床を拭くがそれは関係ない。思わず口元を抑えながら僅かに残る酸味に思わず眉をしかめる。すると後ろから間延びするような声が聞こえ振り替えるとそこには自称吸血鬼を名乗る彼女があくびしながらこちらをみていた。
「 あー、それ飲んじゃった、ごめんね?……あれ、それが嫌だったんじゃない、の? 」
ぴたりと動きを止めた彼女は不思議そうにこちらの顔を覗き込みながら訪ねる。その瞬間ふわっと香った甘い香りに思わず噎せそうになる。
「 うわっ、大丈夫……? 」
そっとふらつく体を支えてもらうと更に濃くなるベリー系の匂いに思わず口元を抑える。
「 …、っ……だい、じょうぶ、…だからはな、れ……て 」
そう告げると彼女は心配そうな表情を浮かべるものも、そのまま去っていった。
次の日、会いたくもなかった彼女にまた出会った。昨日の事を聞き出すのもいいかもしれない。そう思って手首を掴むと、少し驚いたような表情を浮かべるものもすぐにすぅと石榴色の目を細めて笑う。
「 どうしたの〜? 」
「 昨日の、アレどういうこと? 」
そういうと彼女は不思議そうにこちらをみて困惑した表情を浮かべる。そりゃそうだ。急にこんなことを言われたら誰だってこうなる。そう分かってる筈なのに、自分でも自分がわからない。
「 うーん、さぁ、わたしにも分からないけど…………あっ、そうだ、リルちゃん、あーん? 」
少し考え込んだあと飴玉を一つ差し出し無理やり口のなかにいれる。その飴玉は味なんかしないはずなのに、口のなかで転がすと、パッケージにかわいくかいてあるリンゴ味とは違う甘酸っぱい石榴の味が口のなかに広がり、思わず眉を潜める。思い浮かんだ可能性に思わず頭をふる。TVで言ってたあのアナウンサーの言葉が頭をよぎる。
「 ……っ 」
そういうと彼女はくつくつと喉をならしながら日傘をくるくると回す。そのまま近づいてくると、しーっと唇に人差し指を当てて黙らせる。
「 まだ、言わないで……玩具がなくなっちゃう 」
そういうとそのまま日傘を放り投げ、そっと首筋に口を寄せくすりとわらい噛みつく。じわじわと広がる痛みを思わずぎゅっと手を握りしめる。あぁこれじゃどっちが補食する側なのか分からない。
ぐらぐらと貧血で揺れる視界と意識のなかで映った紅い瞳は楽しそうに揺れていた。
「 ご馳走さまぁ〜、石榴の味がして美味しかったよ〜 」
そんな声が薄れていく意識のなか聞こえた。