Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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 「 僕はどんなお願いでも叶えてあげるよ!だって僕はロゼちゃんだけの魔法使いだから 」

 そういって鏡の前で胸をはると僕にそっくりな顔をした少女は、きょとんと顔をしたままこちらを見る。少し考えこんだ後彼女はゆっくりと口を開く。

「 ………病気を、治して……欲しいです 」

 その言葉を聞いて小さく頷く。さぁ、今宵も君に貰った幸せを。……いや、『全てが反対の魔法』をかけよう。




 小さい物心がついた頃、僕は独りだった。薄暗い塔の頂上で一人っきり。響く音はとくんとくんと響く僕の鼓動だけ。ご飯を運びにくるメイドさんは僕のことをまるで化け物かのように扱う。父様と母様は僕のことを殴り、「 こんな子生まれて来なければよかった 」と蔑む。一人では立ってあることさえ覚束ない。あぁまるで、不幸に愛された王子様みたいだ。そんなことをおもいながら今日も下手くそなピアノを弾いていた。

 そんなある日、もの凄い大嵐がきた。それでも僕の日常は変わらない。皆から嫌われ、蔑まれ、下手くそなピアノを弾く。そんな中、一人の招かざる客人がやってきた。彼は古ぼけた小さな鏡をもってきた。それを僕に向けてあやしく微笑む。


「 君の不幸は、本当に君のせいなの?……この魔法の鏡に尋ねてごらん? 」

 そういって彼は鏡を僕に渡す。その鏡を覗き込むと、そこに映っていたのは僕にそっくりな顔をした「 幸せそう 」な少女。それを見て嫉妬に狂いそうになる。先ほど彼は何故僕が不幸なのかこの鏡に尋ねてごらん?といった、なら、僕の幸せは……。

「 もしこれが真実ならば 」

「 ……っ、僕の幸せは彼女に奪われたの? 」

 言葉を紡いだ青年を遮り質問をする。そんな中あってもいない鏡の向こうの彼女が憎くて、羨ましくて堪らなかった。ぎゅっと唇を噛み締めていると青年は天秤を差し出す。

「 これはね、運命の天秤。君はどうするんだい? 」

 そう問いかける青年はくつくつと喉をならしながら、笑う。僕は震える手で重りを全部片方に寄せた。その瞬間パリンと鏡が割れる音がする。その音を聞いて、あぁ僕は幸せになるんだと遠退く意識のなかで思った。これまでの記憶なんか全部忘れて、『 祝福 』されよう。

「 後悔してもしらないよ、また会おうね 」

 そんな声が聞こえた気がした。


  日の光がいっぱい差し込む塔の下、父様に母様、友だちが集まって賑やかにお茶会をしている。メイドたちも笑ってみんな幸せだ。僕は愛されて、皆に嫌われてなんかいない。そんな幸せを噛み締めていた。自分でもまるで幸福に愛されてると感じる環境だ。

 そんなよく晴れた晴天ある日のこと。一人の招かざる客人が僕のもとを訪れた。彼は古ぼけた鏡をもって、にこりと微笑む。


「 君の幸せは誰のお陰か魔法の鏡に尋ねてごらん? 」

 そういって彼は鏡を僕に渡す。その鏡を覗き込むとそこに映っていたのは僕にそっくりな顔をした一人ぼっちの「 不幸せな少女 」。彼女はそっとピアノを弾く。その曲は明るくて楽しいはずなのにどこか悲しく感じた。寂しそうに微笑む彼女の笑顔が僕の心を抉る。あぁそうだ、僕の幸せはあの日……


「 もしこれが真実ならば 」

「 この子の幸せは………あの日の僕に全部奪われたの? 」

 あの日と同じように言葉を被せる。彼女のピアノの音色に今まで幸せだった僕の心は真っ青に染まる。あの日、僕が重りを全部彼女の方に移してなかったら……、君は幸せなままだったの?……鏡の向こうは残酷なくらいに反対だ。

「 っ、……ねぇ、運命の天秤は? 」

 微かな希望を胸に青年に問いかけると、彼はあの日と同じようにくつくつと笑いながら懐からバラバラに割れた天秤を差し出す。

「 あの日、君が壊してしまっただろう? 」

 彼女の幸せは僕が壊してしまった……。その事実だけが頭のなかをぐるぐる回る。なんであの時捨てたはずの昔の罪の記憶が僕を苦しめるのだろう。あの時は嫉妬に狂うぐらい、あの子が憎くて仕方なかったはずなのに。どうしてこんなに胸がいたいのだろう。青年はいつの間にか鏡だけを残して消えてしまった。

 鏡に映る僕と正反対の姿。どうやったって、僕たちはどっちがが不幸になる。

 僕が笑うたびに、君は何回涙を流したのだろう。僕の『幸せ』が君を呪うのなら、どうすれば君をまた幸せに出きる。

  ドウスレバ、君ヲ救エルノダロウ?

 冷静になった頭で一つの答えが浮かぶ。なーんだ、簡単じゃないか。

「 あはっ、なら僕が……君の幸せを、ううん、願いを叶えてあげればいいんだ 」

 
 「 さぁ、魔法の時間が始まるよ 」

 そっと彼女の手を握りながら、今宵『 全てが反対の魔法 』をかけよう。今だけは、僕は、君だけの、ロゼちゃんだけの魔法使いになろう。


 ロゼちゃんの願いは……、いいや、僕が奪い取った幸せは、全て叶ってしまった。鏡の魔法は、もう使えない。これで終わり。少しうつむきながら鏡越しにそっと消え逝く手を合わせて僕は笑った。


   「 お別れ、言わなくちゃ 」

 今、笑ったから鏡の向こうの君は泣いてるのかな。


 また、いつか、君に……ロゼちゃんにあえたら、いいなぁ。



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