Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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 それはとある国の城の天井裏の狭い小さな部屋。そこには、ピアノ、ぬいぐるみにベッド、そして古ぼけた鏡が一つ。皆から嫌われたわたしは、ずっとここに一人。給仕の人以外此処には誰も訪れない。窓を開けて飛び込んでくるのは、暴言の数々。風に靡いた髪を抑えながら開けた窓を閉める。

 ずっと一人、昔も今もこれからも。それでもずっと幸せを夢見てる。そんなことないのだろうけど。思うように動かない足を動かして、ピアノの前に立つ。弾く曲は、乙女の祈り。ずっと弾いていると、ふと鏡から声が聞こえた気がした。ふと、ピアノを弾く腕を止めて古ぼけた鏡へと視線を移す。

 そこには、私と同じ背丈の、魔女のような格好をした、私にそっくりな笑顔で笑う少女が立っていた。かちりと、何処かで歯車が回るような音がした。ゆっくり、思うように動かない足を動かしながら鏡の前に行くと、少女はふわりと微笑んで、話しかける。

「 __僕は魔法使いのリコット________ねぇ君の、名前を教えて欲しいな 」

 その魔法使いと名乗ったその人に向けて、震えた声で名前を告げる。あぁ人と喋ったのはいつぶりだろうか。にぃっとぎこちなく口角をあげ、笑顔を作る。

「 わたしは……ロゼ、……ロゼです…っ!… 」

 これが私と彼女の出会いで、はじめての会話だった。


 まるでであった瞬間から、運命が周りだしたようにその日からわたしのいつも通りの日常が変わりだした。彼女はいつも側にいてくれた。ピアノを弾けば拍手をくれたり、辛いときは鏡越しにそっと寄り添ってくれた。ある日、彼女は友だちになろうと言ってくれた。友だち……、その言葉を噛みしめながらスカートのすそををぎゅっと握り、彼女の方をむく。

「 初めて……できた、友だちって……、友だちってよんで、いいのですか? 」

 そう告げるとやっぱりわたしにそっくりな笑顔を浮かべ頷く。少し戸惑いながら鏡越しに手を重ねた瞬間にぱぁっと周りの景色がぐるぐると変わる。その様子に戸惑っていると鏡の向こうの彼女はふっと笑いながら初めて実体を表した。そして二人同時に言葉を紡ぐ。

「 さぁ、魔法の時間が始まるよ 」

「 あのっ……名前を、呼んでいただけますか? 」

 初めて触れた、暖かな感触に思わず涙が零れ落ちる。慌てたようにあわあわとするリコットさんをみて、泣きながらくすりと微笑む。

「  ふふっ、……ロゼちゃん 」

 ぎゅっと握った手から伝わった声にまた涙が溢れだす。
 この手をこのままでずっと握ってていいの……?、その言葉は嗚咽のせいでうまく出来なかった。


 リコットさんは私の願いの全て叶えてくれた。病気は治って、歩けるようにもなった。ずっと続いていた戦争もよくやく終わって、静かなこの屋根裏部屋にも笑いが増えた。

 そんないつもどおりのある日の昼下がり。二人で紅茶を飲みながら、リコットさんに小さい頃の夢を聞かれた。小さい頃の夢……。それは今でも懐かしい位に鮮やかに覚えてる。素敵なお城にわたしは住んでて、皆仲がよくて、それでいてわたしは素敵なドレスを着ていてお姫様みたいで。……そんな夢でさえ今では現実になる。

 夢見た願いは全て叶えて貰った。日に日にリコットさんがこの部屋にくる回数も減っていった。でも、それでも今何かが足りない。それは今目の前にいるリコットさんにかできない魔法。

「 ねぇ、どうか__この手をずっと離さないでいて 」

 その言葉はいえなくてぎゅっと唇を噛み締める。固くぎゅっと手をにぎると少し驚いたような顔をしながら彼女は優しく微笑む。この幸せがいつまでも続くようにと密かに願う。

 だからずっと側にいて。君がいない夜は眠れない。あの日みたいに優しく名前を呼んで?……いつでもわたしは鏡の前で待ってるから。
 

 ある日いつものようにピアノを弾いて、二人で他愛のない話をしていたとき、不意にうつむいたリコットさんは小さな声で言葉を紡いだ。

「 ロゼちゃん……そろそろお別れ言わないと 」

 別れ__というものは唐突にやってくる。それは分かっていたけど、それでも。その言葉は言いたくなかった。

「 言わないで、ください 」

 あぁ、わたしはこんなにも我が儘で貪欲だったのだろうか。そんなことをおもいながら鏡の向こうの手に手を伸ばす。ずっと握っててくれるっていったじゃない。そんなことを考えると涙が止めどなく溢れてくる。

「 でも、そうじゃないと僕がロゼちゃんにかけた魔法が溶けちゃう、だからお別れいわなくちゃ 」

「 っ……言わないで、 」

 そんなことどうでもいいから、ねぇ

      『 お願いだから 』

「 泣かないで 」
「 行かないで…… 」




 泣き止まないわたしに、リコットさんはそっとわたしの涙を拭いながら話し始める。

「 あのね、鏡の向こうは全て逆の世界なんだ。何があっても決して交わることのない逆さ合わせの定め 」

「 ロゼちゃんがくれた幸せを、僕は返しにきたんだ。……僕はロゼちゃんの笑顔も涙も、ずっと忘れないよ 」

「 だから、ロゼちゃんも……どうか僕のことどうかずっと 」

     『 忘れないで 』


そういうとリコットさんの姿が鏡の向こうで割れて消えた。

 「 うっ、うっ、あぁ、うっうっ、うぁ、……ひっ、……うっ 」

 魔法なんてなくてもよかった。そんなものなくても、優しく笑ってくれるあなたのそばにいたい。

 ねぇ、だからもう一度、この屋根裏部屋に会いに来て。この古ぼけた鏡を磨いて、ずっと、おばぁちゃんになったって待ってるから。どんなに時がたってもずっと、君をただ


       待ってる

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