Silver spoon wars
ふしぎなお茶会、きらめく銀の匙

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! あくまで捏造 !

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 まだ学生だった頃、わたし___今日はそう言うことにするね、あのころはマロンって名前じゃなかったし___新聞部に入ってたの。と言っても幽霊部員だけどね。新聞部自体もあんまり活気のない感じの部活だった。特にうちの学校はスポーツが結構強くて、マロンは勿論チア部にも入ってたから、やっぱりそっちの方が忙しくって、新聞部には本当にたまーに顔を出して、顔は出すけれど新聞を書くでもなく下校時刻まで喋って帰る、みたいな両立の仕方をしていた。両立って言わないかな、それ。

 それでもやっぱり一年に何回かは記事を書かなくちゃいけない時もあって、わたしは校外に取材をしに行く手間を省くために手近なところで『学校の植物』みたいな記事を書くことにした。今思うとびっくりするくらいつまらない内容だけれど。まあとにかくわたしはその時カメラをぶら下げで裏庭の花の写真を撮っていた。撮っていたら、突然誰かがあたしの横に、そっとしゃがみこんだ。その人は、わたしがちょうど撮っている花をしばらく見つめた後、ゆったりと話し出した。
「 すてきな写真だね 」
 それを聞いて、わたし思ったの、この人、誰だろう、って。なんか見たことあるような気がするし、みたことがないような気もした。
 結局、その人は新聞部の顧問だった。わたしはほとんど新聞部に行ってなかったし、また同じように先生もほとんど新聞部には来てないみたいだったから、全然印象になくて忘れてたんだわ、わたし。
 けれど、その日から先生とわたしは次第によく話すようになった。その場所は、前と同じ裏庭だったり、後者の隅だったり、あるいは近所のファストフード店だったりもした。次第に、わたしは先生のことが好きになっていた。先生も、たぶん、同じ気持ちだった。
 そして夏が過ぎ、秋が終わり、冬が来た頃、先生とわたしは逃げ出した。か、け、お、ち、みたいなものね。たしか雨の夜だった。
  逃げ出したわたしと先生は、遠く離れた街の小さなアパートの一角で暮らすようになった。借りてたのかな?家を用意したのは先生だから、わたしはよく知らない。3ヶ月くらいのうちに、3、4回くらいアパートは変わった。それでもわたしと先生はいつも一緒だった。とても幸せな暮らしだった。

 __けれど、ある日目を覚ましたら、先生はいなかった。わたしに嫌気がさした?教え子と逃げながら暮らしているという危機的状況にふと我に返った?今となっては想像することしかできない。けれど、わたしは捨てられた。それだけは、最も残酷で単純な事実だった。わたしは泣くことも喚くこともしないまま、呆然とその事実を咀嚼し続けた。
 そこからきっと何日か日が経って、わたしは行くあてもなくふらふらと街を歩いていた。鳥の泣く声も街の騒音も、わたしの耳には入ってこなかった。しばらく歩いていたら、ふと見えた。人混みを縫うようにして歩く、先生の姿が。わたしは駆け出した。夢中で先生の背中を追いかけた。ゆったりと歩く先生と全力で駆けるわたしとの距離は、どんどん縮まって行く。あとすこし、あとすこし____わたしは先生の手を掴んだ。先生!_____

 結論から言うと、その人は先生じゃなかった。わたしにもそれはすぐにわかった。でもわたしは止まれなかった。振り向いたその人の胸に縋り付いて、わんわん泣いた。先生がいなくなってからはじめて泣いた。なんで置いてくの、先生のバカ、先生なんて大嫌い___なんて支離滅裂な暴言も吐いた。その人はただ、うんうんと頷いてわたしの言葉を受け止めてくれた。
 流れ的に察してる人もいるかもしれないけど、わたしが泣きついたその人が主様だった、ってわけ。主さまはわんわん泣き喚くわたしに事情を聞くと、すぐに館に連れて来て、あったかいご飯とふわふわのタオルをくれた。そしてわたしは晴れて、この館の住人になったの。主さまの出会いは、本当にマロンの人生にとってラッキーな出来事だったわ。

 ___さて、ここでマロンのお話はおしまい。面白かった?……そう?ならよかった。さあ、次はあなたの番よ、マロンがとっておきの記事にしてあげる。





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