2

 ミコトくんと郵便局に行った日から数日経ったけど、たまにあのバッハの演奏を思い出す。あれはなんだったんだろうな。他人を乗っ取っているようなぎこちなさは何もなく、なめらかな演奏だった。しかも暗譜で。練習すればあんな風になる、とでも言うのだろうか。
 ぼくはため息をつきながら、ピアノの白黒の鍵盤の上に指を置いた。
 四階のラウンジにはアップライトピアノが置いてあって、誰でも弾いて良いことになっている。素人のタッチで弾く人もいるからかなんなのか、調律がいつも少し狂っているけど、まあ、気楽に弾く程度なら問題ない。
 めずらしくこの部屋に誰もいないのをいいことに、そのピアノで、昔弾いた曲の主旋律を右手でなぞってみる。ベートーヴェンのピアノソナタ、第八番「悲愴」、その第二楽章。第一楽章と第三楽章は弾いたことがない。右手で弾いているうちに、バスの音はなんとなく思い出してきたけど、内声までは思い出せない。
 ピアノは押した鍵盤の音しか出さないから好きだ。Cの鍵盤を打てばCが、Bの鍵盤を打てばBが、Esの鍵盤を打てばEsが……。調律によって音が変わるとはいえ、鍵盤の一つ一つに対して音は一つしか鳴らない。ヴァイオリンやチェロ、ギターはそうはいかない。一本の弦でさまざまな音高を表現する。
 ピアノは猫でも押せば弾ける。ぼくでも弾ける。
 それなのに、ピアノを辞めたのはなんでだったっけ。
「あっ!」
 急に部屋に入ってきた人がいて、ぼくの心臓がどきっと跳ねた。声からして、寧、という住人の女の子だった。すぐに右手を鍵盤から下ろして、赤いカバーを鍵盤に被せる。
「ねえ、キリネお兄様って、今どこにいるか知りません」
 寧くんは息を切らしてぼくに問いかけた。彼女の三つ編みにした髪が揺れている。
「え、ごめん、知らない」ぼくはピアノの蓋を閉じながら立ち上がる。「一緒に探そっか?」
「ありがとうございます、お願いしますっ」
「どうかしたの?」
「ええと」はは、とごまかすように笑うと、彼女の眼鏡のレンズがきらりと光った。「会ってお話ししないといけないのです」
 そうなんだ、と、ぼくは特に深追いしなかった。寧くんはぎゅ、とこぶしを握っていて、ぼくの知らない、何かがあるんだろうと思った。
 館の一階から四階、屋上まで探したが、キリネは見つからなかった。そういえば、蒼も見ない。ふたりで外出しちゃったのかなあ。探していない場所は、あとは庭と離れだけになった。
 離れに行くには鍵が必要だったので、鍵の管理をしている秀さんに会いに行くと、「離れの鍵? 借りてった人がいるから持っていない」と言われた。
「ちなみに、どなたが」と寧くん。
「キリネと蒼だよ。クララも一緒じゃないの?」
 ぼくと寧くんは顔を見合わせた。ビンゴだ。
 離れに行くと、ドアの鍵は開いていた。中から人の声がする。寧くんがドアをノックするのかと思ったら、ノックもせず、ばたっと扉を勢いよく開けた。そこは、ちち、と古ぼけた蛍光灯の点滅する薄暗い空間だった。なんとなく空気が埃っぽい。段ボールが積みあがっている。部屋の真ん中で座り込んでいるのは、キリネと蒼だった。
「キリネお兄様っ」
 寧くんの声に、キリネはぎょっとした顔で振り返った。手に持っていた何か――小さい紙? が、あぐらをかいているキリネの膝に落ちる。
「ちょっとこの人お借りします」
 彼女はキリネを引っ張った。え、なんだよ、とキリネは眉根を寄せている。
「掃除当番のペアだったんですが、お忘れみたいだったもので。すみません」
 にこ、と寧くんは笑って、キリネを連れて離れを出て行った。
「何だ、あれ」
 ぼくは呟いた。
「何してたの」
 と、残された蒼が、床に並べていたあの小さな紙――よく見ると写真、をかき集めながら言う。
「なんか、キリネ探してって、寧くんに言われてさ。そっちこそ、何してたの」
「何でもない」蒼は小さく咳払いをした。「主様に、写真整理頼まれただけ」
 蒼の後ろに、『アルバム』と書かれたひとつ段ボールが転がっていたが、埃が厚く積もっていて、つい先ほど開けられた、というような感じはしなかった。がしゃがしゃ、と手早く写真を集めると、蒼は膝元の小箱にしまった。
「行こ。ここ、埃っぽくてたまんねえよ」
 小箱を抱えて、蒼は立ち上がった。パンツの裾が、少し埃で汚れている。
「その写真はどうすんの?」
 ぼくは電気を消しながら、その小箱について聞いた。
「いいんだ。いらねえから」
 どういうこと、と聞いてみようかと思ったが、ふと後ろを振り返ると、さっきふたりが座っていた床に、一枚、写真が残っていた。どうやら小箱に入り損ねたらしい。ちょっと待って、と言って、写真を拾い上げる。見てみると、ぼくの背中がぞわりとした。
 それは、ぼくの故郷――ぼくと、キリネと、蒼の故郷の写真だった。あの川沿いの、桜並木の遊歩道を写した写真。ぼくは咄嗟にそれをポケットに滑り込ませる。
 何、と背後から蒼の声がして、「あーっ、……ゴキブリが視界にちらついたような気が」とか、適当に答える。
「えっ、まじかよ、気持ちわりい……さっさと行こうぜ」
 うん、とぼくは、蒼と一緒に離れを出た。蒼が離れの鍵をしめた。秀のとこに鍵返してくる、と言って、蒼はどこかへ行った。
 ぼくはひとりぼっちになった。寧くんの人探しをする前はピアノを弾いていたことを思い出したけど、なんとなくそういう気分でもない。行く当てもないまま、館をさまよう。一歩一歩踏み出すたびに、ポケットにいれた写真が布と擦れてかさかさ言う。
 結局自室に戻って、ベッドに寝ころびながら、その写真を眺めていた。実はぼくは、この館に来る前までの写真は一つも持っていない。故郷の写真も、幼いころの幼馴染の写真も、もちろんぼくの写真も、一つもない。そうするのが当然だと思ってた。故郷で、ぼくは、あの交通事故で死んだことになっている。霊になったぼくがいるところじゃないし、思い返すところでもない。もっとも、いたくもないし、思い返したくもない。あのまちで幼馴染に出会えたけど、あのまちでぼくはぼくを嫌いになった。あのまちでぼくを殺した。だから、写真なんて、いらない。
 ふたりがなぜこの写真を持っていたのか、考えてみる。あの写真の束、絶対主様のものではないだろう。主様がぼくらの故郷の写真を持っていてどうなるんだ。ふたりが、ぼくのいないところで、自分たちの昔の写真を整理していた。そう考えるのが妥当だろう。別に、小さい頃のこととかもう気にしてないんだから、こそこそやらなくてもいいのに。
 もう一度、写真を眺める。満開の桜の花。散った花びらをゆったりと運んでいく広い川。その対岸に見える家々。小学四年生の春、蒼の作ったサンドイッチを持って行って、この河川敷でお花見をした。ああ、黄色い外壁のあの家が写り込んでいる。あれはピアノの先生の家だ。きゅ、と胸が苦しくなる。手のひらに乗るくらいの、小さな紙切れなのに、丁寧に見るほど、それが引き金となって、あのまちを思い出してしまう。前言撤回、ぼくのいないところで写真整理をしてもらって、正解だったのかもしれない。
 ぼくは寝返りを打って、目を閉じた。幽霊なんだから、眠くも何ともないはずだけど、そのまま眠りに落ちた。

「蒼、まだ食べてんの。クララ並みじゃん」
 いつもの食堂、いつもの朝。必要もない食事を、義務感だけでのろのろととっているぼくが、大抵ひとりで最後まで食堂に居座ることになるのだが、今日は違った。同じテーブルに座っているキリネはとうの昔に食べ終わっているが、蒼はまだぼくと同じくらいの量の料理が皿に残ったままだ。
「よく噛んで食べてんの」蒼は肩を竦めてスープをすすった。今日のスープは、クラムチャウダー。「一口につき百回噛む」
「何それ」キリネが眉を顰めた。「俺、先行くよ」
「じゃあね」
 ばいばーい、と、ぼくも手を振る。キリネが完全に部屋のドアを出たのを見送ると、蒼は口にしたパンを数回だけ噛んで飲み込み、なあ、とぼくに耳打ちした。
「キリネと寧ちゃんって、あやしくない」
 レタスを噛む奥歯が、ぎゅ、と音を立てた気がした。わざわざぼくに食事のペースを合わせて、キリネを退席させて、何を言うかと思ったら、そのことか。ぼくはレタスを飲み込みながら、蒼の方を振り向く。緑色の瞳が照明に鈍く光って、つやつやしている。
「当番表、見たんだよ。昨日、ふたりは掃除当番なんて当たってなかった。そもそも今月、ペアでやる当番にふたりの名前があるなんてこともない」
「じゃあ、昨日の、掃除当番云々ってのは」
「何かあると思うじゃん」
 何か、っていうのは、恋仲のことを指すんだろう。瞬きをして、目で確認する。そう、そのこと、と頷かれる。
「だから何」
 思っていたよりも冷たい声が出て、それを紛らわすために、パンの最後の一かけらを口に入れる。焼きたてではないのもあって、パンはもそ、と口の中で水分を吸っていく。
「カマかけてみねえかってこと」
 ううん、と言ったか、うん、と言ったか自分でもよくわからないが、ぼくのこぼしたうなり声を、蒼は肯定と解釈したらしい。「じゃ、食べ終わったらキリネの部屋に突撃な」とかなんとか言っている。
 キリネに、恋人、ねえ。まあ、ぼくら幼馴染の誰かに恋人ができたらどうなるんだろうとか、考えなかったこともないけど、それがじんわりと現実になっているらしい。それも、寧くんか。よりによって、ぼくらの知り合いか。今まで気づかなかったけど。いつから。まだそうって決まったわけじゃないけど、本当にそうなら、いつから。なんで言ってくれなかったんだろう。なんで秘密にしていたんだろう。
「いっ」
 思案を巡らせているうちに、がり、と犬歯で舌を噛んでしまった。慌ててパンを飲み込んだ。皮がめくれている気がする。
「何?」
「舌噛んだ」
「はは、大丈夫かよ」

 結局蒼は普通のスピードでごはんを食べた。ぼくはその五分後くらいにやっと食べ終えた。そうしてふたりでキリネの部屋に向かった。ぼくがドアを叩いて、「キリネ、開けろー」と蒼が言う。待て待て、と言いながら、キリネがドアを開けた。
「今入って良い? 良いよな?」
「良いけど」
 キリネはぼくたちを部屋に通した。部屋の真ん中にローテーブルがあって、それを三人で囲んで床に座る。蒼が組んだ両手をテーブルの上に乗せて、話を切り出した。
「ねえ、キリネと寧ってどういう関係?」
「どういうって、……何」
「付き合って……、とか」
「ああ――言ってなくてごめん」
 あまりにもあっさり白状した。秘密とも思っていないような、そんな軽さだった。ぼくは少し面食らった。言ってなくてごめん、で、通っちゃうんだ。ぼく自身の秘密のことが、脳内をちらりとよぎる。言ってなくてごめん、という文言を頭の中で繰り返す。ねえ、ふたりとも、ぼくが幽霊だってこと、言ってなくてごめん。でも、そんなこと気にしないよね? 気にするわけがないよね? なんにも咎めずにぼくを許してくれるよね? 変わらずぼくを想ってくれるよね? ――そういう、圧力だ、この文言は。
「秘密はないって言ったじゃんかよ〜」
 蒼がキリネをぽかぽか小突いた。
「そん時は言うの恥ずかったんだってー、……」と、キリネは頭をくしゃくしゃと掻きながら、蒼とわあわあ言っている。「いつから?」「館来る前に〜」「来る前! そんな前から!?」「まじでごめん。でも、もう何にもないんだ」
「じゃあ、もう終わったの?」
 ぼくはそれとなく聞いてみる。あー、と、キリネは頭上をちらりと見た。何かが書いてあるみたいに。
「二ヶ月くらい、で」
「はえー」と、蒼。「俺たちが応援してたら長続きしたのかもしんないのによ」
 いやあ、まあ、とキリネは苦笑していた。
「昨日、寧くんに引っ張ってかれたのは、なんだったの?」
「もう今はあいつと話すことも少なくなってきたけど、昨日呼び出されたのは、なんか、怒られた。付き合ってた時にもらったリングが綺麗で、ずっと付けてたんだけどさ。それ、もう外せよって言われて」
 そういえば、キリネがいつもしている右手の指輪が今日はない。あの、青い石がはまってるやつ。
「それは怒られて当然だ」と、蒼が肩を竦めた。ぼくもそうだよーと笑う。
「えー、付けねえともったいなくない?」
「もったいないと思うなら、付ける以外にも、売るとか」
「ああー、そっか、なるほどな」と、目を丸くするキリネ。
「いやまあ、そういう話じゃなくて」と、ぼくがつっこむ。
「元カレのリングいつまでも付けてるやつと、お前は付き合いたいかって話。付き合いたくないだろ」と、蒼。
 ぼくらの詰めかけに、キリネはきょと、とした顔で瞬きした。
「いや、物を大切にする人だなと思うけど」
 だーから続かねえんだよ、と蒼は顔を顰めた。
「でも、破局に関して、俺は悪くないよ。あいつが年齢のサバ読んでたから。十七歳だってあっちは言ってたのに、ほんとは十四だったんだぜ。十四は、まだ中学生だろ。当時俺、十九……なる直前の十八? 成人男性と中学生女児は、ちょっと、なあ、こっちも、なあ」
 と、キリネが助け舟を求めるようにこっちを見たので、四歳差かあ、と返しておく。
「まあ、たかが四年って言えないもんな。俺らにとって四年間とか、ほぼ人生の四分の一とか、二割とか占めるんだぜ――はあ、年の差婚とかってなんで成り立ってるんだろうな」
 蒼は脚を組んだ。キリネはちょっと考えてから、恥ずかしげもなく、するっと、言った。
「愛の力じゃねえの」
 ぼくはちょっと驚いて、ぱち、と瞬きして、キリネの顔をよく見た。
「キリネはそこまで愛してなかったってこと?」
 年の差があるカップルが、愛の力で成り立つと言うなら、キリネと寧くんの間には愛なんてなかった、そしてキリネはそれを認める、ということになるはずだ。彼の顔をじっとみる。そういえば、幼馴染の顔をまじまじと見たことなんて、最近はあまりないかもしれない。キリネは鼻で浅く息を吐いた。
「十九歳とか二十歳の分際で、愛なんか語れるかよ」
 それは逃げじゃないの、と、思ったけど、ぼくは何も言わずに唾を飲んだ。まあなあ、と蒼は相槌を打っていた。そんなふたりを見て、ちょっとだけ寧くんに同情した。
 ぼくはこの歳でも愛を語れると思ってる。ぼくの存在がその証明だ。ふたりを愛してるから、ぼくはこの世にしがみついてる。でも、愛する対象が、愛という概念から逃げの姿勢を見せるなら、それは胸の詰まるような思いだろうね、寧くん。寧くんが愛してたかどうか、知らないけど。
 ぼくも鼻からふっと一つ息を吐いた。そういえば明日、畑の種まきに男子が招集されるんだよなあ、とかいう話題に移り変わった。ぼくは一瞬だけ目を閉じて、開く。それ、忘れてたなあ、と返事をしながら、ふたりの会話に加わった。ざら、と、噛んだところの舌が、喋ると時折痛んだ。

 なんとなく、キリネの部屋での会議はお開きになった。三人はそれぞれ別れて、ぼくはふらふらと四階のラウンジに向かう。ピアノが無性に弾きたかった。アップライトピアノの横の棚から、ハノンを抜き取って、一番から順に弾く。白鍵だけをなぞる、曲でも何でもない、指の運動。二十番まで弾き終わったところで、一区切り着いた。ぼくは素人だから、もう指がじんじんしていて、両手をばたばたと振って力を抜く。
 ぱちぱちぱち、と、一人だけ拍手をする人がいた。ピアノのすぐ後ろのソファから腰を上げてこっちに向かってくる、ミコトくんだった。
「クララって、Mなの」
「努力家っていう言葉、知らない?」
 ぼくはちょっとだけ微笑んだ。売られた言葉は買う、そうやって反発することで、ぼくは彼に線を引く。きみのことを知りたいけど、それはただ遠くから見ていたいだけ、みたいな野次馬的感覚なんだ。入ってくるな。
 ミコトくんはぼくのそばに立って、ハノンの譜面を眺めた。
「ハノン練習とか、よくさぼってたなあ」
「さぼんのがかっこいいと思ってるの?」
「クソダサいよ」ミコトくんは、笑いながら顔の横の髪を耳にかけた。「まあ、もうピアニストになるわけじゃないし、なんでもいいかな」
 ぼくは椅子に座ったまま、彼の顔を見上げる。なろうと思ってたんだ、と呟いた。そう思っていたのは、ミコトくんの身体が? 心が?
「そっちは、なんでピアノやってたの」
 彼は冷ややかに笑った。なんだか嫌な物言いに聞こえた。いや、本当は、単純に興味があるからたずねただけで、ぼくの耳を通った途端に彼の質問の意図がねじ曲げられているだけなのかもしれない。他の人から見たら、あたたかく微笑んでいるように見えるのかも。ぼくもわざと笑った。
「この話、したくない」
「あっそ」ミコトくんがぼくの肩をとんとんと叩いた。「俺も弾かして」
 ぼくは彼に席を譲ってやった。そばに立って、ミコトくんの指が白鍵に乗るのを見守る。そうして、ハ長調の音階が聞こえてきたとき、思わず笑ってしまった。なんの曲を弾くかと思ったら、スケールか。ホ短調まで弾いてすぐに、あーきた、とか言って、投げ出す。
「ピアノやってたのは」無意味にホ短調のカデンツを繰り返すミコトくんに、ぼくは言った。「なんでかわかんない」
「ふーん」
 さっきの質問に答えてやったのに、ミコトくんはそれだけの反応しかしない。心の底、一万メートルで舌打ちをする。どうやらぼくら、お互いに興味がないらしい。
 じゃーん、と重厚な短三和音が鳴って、ミコトくんは思いついたように、あっ、と声をあげる。
「そいやさあ、駅ピ、××駅にあるって聞いた。弾きに行きたいんだけど」
 ミコトくんはぼくの方を向いて言った。
「どうぞご自由に」
「行かねーの?」
 ぼくの左腕の服の布を掴まれて、腕をふらふらさせられる。え、とぼくは眉間を顰めた。
「一緒に?」
「一緒に」
「良いけど」
「じゃ、一週間後ね」
 ミコトくんはやっと腕を離して立ち上がった。一週間後ってことは、練習しなよ、というメッセージか、と思う。わかった、と短く返事をすると、ミコトくんは鼻歌を歌いながらどこかへ行ってしまった。

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