005 学パロの梅雨
まだ梅雨じゃないけどね!
ヴァレーニエ
雨だろうと晴れだろうと梅雨だろうと、昼休みは本を読むと決めている。だが心なしかいつもより教室の中ががやがやしている気がするので、空き教室に移動して本を読むことにした。時折活字から目を離して窓の外を見てみるけれど、いつもどよんと雨が振っているばかり。つまらないわね。すぐにまた、本の世界に向き直った。
ココ
いつも300円ぐらいのどこにでもあるような透明なビニル傘を使っているので、梅雨の間に一回は下駄箱の傘立てから自分の傘がなくなる。舌打ちしてから何食わぬ顔で誰かの無記名の透明ビニル傘を拝借する。こうやって世界のビニル傘は誰かの手元を回るのだからしょうがない。
えんら(学パロというか現パロ)
ベランダに出て煙草を吸うか迷う。結局ベランダに出る。早く梅雨あけねーかなー、と思いながら若干吹き込む雨を鬱陶しく睨んだ。けどよ、梅雨が明けたって仕事だしなあ、とまた煙草をふかす。社会人に夏休みはないのだ。学生時代が途端に懐かしくなった。誰かと飲みに行きてえな。またひとりで煙草をくゆらせた。
ロゼ
ピアノの鍵盤がなんとなくじっとりしていて、顔を少し歪める。ミスタッチが多い気がして溜息をつく。雨の日は嫌いじゃないですけど、湿気が多いのはなんだかなあ。心が晴れないのでショパンでも弾きましょうか。雨だれの前奏曲が昼休みの音楽室にやわらかく響く。
都
髪がうねる梅雨はあまりすきではない。髪を結んでごまかそうか。長らく使っていないので、どの引き出しに髪ゴムを入れた缶をしまっておいたか忘れてしまった。デスクの引き出しをがさが漁っていると、間違えてデスクの上に積んでいた、提出してもらったプリント類に手が当たってばさばさと山が崩れてしまった。折角出席番号順に並べてもらったのに!髪を結ぶ気力はどこかへ消えうせた。せやから、梅雨はいややねん。
アルディ
今日は教室の掃除当番で、ゴミ捨てを引き受けた。屋外のゴミ捨て場所までのすのこを敷かれた道を歩いていると、ゴミ捨て場所の裏の方に紫陽花が咲いているのがちらりと見えた。しかし今は上靴を履いているのだ。あとで下校のときに、紫陽花を見に行こうかな。ゴミを回収箱に入れて、じっと遠くの紫陽花を見つめた。また後で、ちゃんと見に来るね。
ジュジュ
雨の日は、きらーい!だって体育館の床がめちゃめちゃすべるんだもん。昼休みに開放されている体育館に座り込んで、バスケットボールをとんとんと床にはずませた。きゅいきゅいとそこかしこで床と上靴が擦れる音がする。あーあ、あそこで滑んなかったら咄嗟にダブルドリブルなんかしちゃわなかったのにな!ルール違反をしてしまい一旦退場となったジュジュは、ついと唇を尖らせて飛び交うバスケットボールを目で追った。
モネリィ
この学校の校舎は歴史だけがウリ。歩いている廊下の真ん中には雨漏りに備えたバケツがふたつ置いてあった。「やっぱりこの校舎、建てかえないのかな」「県立だしお金ないだろ」「そうなんだよなあ」家庭科部のミシンも、修理してくれないもんね。思わず溜息をつきたくなったけど、ついたってどうしよもない溜息はつかないと決めていた。
クロエ
雨はうきうき。だってかわいい傘がさせるから!クロエの雨傘は黒に近い紺の地に白い小さなドット模様。シンプルだけどあまくてかわいくてお気に入り。一番のポイントは模様がところどころ水玉じゃなくてお花になってるところ。あのひとみたいな傘でしょう?
エリーザベト
「今日も屋上で合わせ、できないねー」「では、教室で合わせると?」「そうなっちゃうよねえ」今日の放課後、音楽室はオケ部が使う予定だし、視聴覚室も空いていない。そういう日に合唱部が先生との指揮合わせをするときは大抵屋上を使うのに、今日も昨日も雨で使えない。教室で合わせているとときたま苦情がくるから嫌なのだ。「早く梅雨、明けないかしら」「ほんとだよね」隣で部長が溜息をついた。