今日は仕事もよくやってくれたし、まぁ今回くらいは、と酒を奢ってやった。
それがいけなかった。
「だいたいねぇ、ふくちょーもふくちょーですよ。なんで局長をもっと厳しくしないんですか?」
「……」
「お妙さんだっけ?あの人も迷惑してるんだからよォ、ふくちょーが局長を止めないといけねぇですよ」
「……」
「あのゴリラもといゴリラを抑止できんのはふくちょーだけなんですからさァ」
「おい、もう局長は完全なゴリラじゃねぇか。もとい必要ねーよ。つか最終的には志村妙が局長をつき離してるから平気だと俺は」
「そぉれがいけねんですよ!」
そう言うとテーブルを強く叩きつけ、ぐらぐらと揺れる焼酎入りのグラスを掴んで一気に飲み干した。ぷはぁ、と酒臭い息を吐いて口元に零れた焼酎を拭う。
もう既におっさんだ。完成形として俺の目の前にいる。
「そーやってのさばらしてるからゴリラはあんなゴリラになるんですよ。その尻拭いは全部ふくちょー持ちでしょ?じぇんぶ!」
何だじぇんぶって。全部?とにかくもうこいつは完全にできあがっている。呂律が回ってきてねぇ。誰だこんなに飲ませたのは。俺じゃねぇか。こんなことになるなら普通に食事処とかにすりゃ良かったと今更ながら後悔した。
「うっく。ふくちょーはもっとしっかりしなきゃダメれすよ。みんなをまとめなきゃ、ヒック」
「つか何だよふくちょーって。スゲームカつくんだけど」
「そうそう、その勢いで局長を締め殺しちゃいましょう!」
「その前にお前が俺に締め殺されろ」
「ふくちょーはみんなの人気者なんですからァ、」
「シカトかゴラ」
「みぃんなふくちょーのこと好きですよー。あ、もちろん私も」
思わず、持っていたグラスを落としそうになった。いや、違う。コイツはそんな意味で言ったんじゃなくて、ただ単に敬慕、そうだ敬慕だ!敬っているという意味で!だから特別深い意味は…、
「なのに沖田隊長ばっかり相手にして…。…ねぇふくちょー、私が沖田隊長だったら、同じくらい相手にしてくれます?」
「ぶふぉ!!」
ついに吹き出してしまった。いや違う!
「私は本気ですよー」
そう言ってグラスを空ける。そして、ひたと俺を見つめた。顔が赤くなっていくのは、きっと酒のせいだ。コイツの頬が染まって瞳が潤んでいるのもきっと酒のせいだそうだ。
「好きなのに…相手にされないって悲しいです」
そう言って、テーブルに突っ伏してしまった。…寝てやがる。人にさんざん言っておいて寝んのか。おい、どうやって責任とってくれんだよ。俺のこの淡い期待はどこへやるんだ。
「ちくしょー…」
店を出て、俺は飲みつぶれたおっさんもどきをおんぶして帰り道を歩く。背中に柔らかい感触を受けながらふと空を見上げると、綺麗な星空が俺の行く道を照らしていた。
あぁ、ついでに俺の心の中も照らして欲しい。理性と本能の狭間にいる俺に、正しい道しるべを照らしてくれよ。このままじゃ、本能に負けちまうじゃねぇか。
ロマンチックな星空に
title/Aコース様
一万打記念作品