いろいろ | ナノ



ちょっと所用があったので職員室にいた私は、さしたる用もなく呼んだ先生に文句を垂れながらも職員室を出た。ただでさえ今回のテストが最悪だったっていうのに、さらに苛々させる先生には一発平手をお見舞いしたい。

床を鳴らしながら教室に戻ると、誰もいないと思っていたそこには先客がいた。しかも私の席に座って、あまつさえ私の愛読書を読んでいる。勝手にそんなことされては多少苛つくのが人間だ。
鞄を取りに行くのもあって、すたすたと自分の机に向かって歩く。しかし近づいてよく見ると、私の机に座っているのは冷酷無情で有名な毛利元就くんだった。すらりと長い足を組んで本を読む姿はかなり画になっている。――ってそうじゃなくて!
私の席に座って私の本を読んで、一体彼は何がしたいんだろうか。彼と私の間にはなんの接点もないというのに。

私がすぐそばにいるのにも関わらず、私の存在などないとでもいうふうに本のページをめくる毛利くん。
そんな私は毛利くんに話しかけようか迷っていた。毛利くんは目つきが鋭いし空気も態度も冷たいから、なんだか近寄りがたいのだ。いつも一緒にいる元親くんがすごいと思う。ちなみに私と元親くんはお友達だ。私は重い唇を開くと、勇気を振り絞って声を出した。

「――あの、」
「……何ぞ」

たっぷり間を開けてからようやく返ってきた返事に内心感激しつつ、平静を装って続けていく。

「そこ、私の席なん、ですけど」
「知っておるわ」
「だったら、退いてくれませんか」
「……今は手が離せぬ」

そう言ってまた本のページをめくる。毛利くんの細長い、整った指先を見つめながら私は閉口してしまった。その本は面白いから続きが気になってて、今日は家に持って帰ってじっくり読むつもりだったのになぁ、と一人ごちる。
しかも教科書やらがまだ机の中だから取り出したいし、とにかく退いてほしい。だいたい何故に毛利くんがここにいるのだ。甚だ疑問である。

じっとそこに突っ立ったままでいるのも疲れるし、私にだって用事というものがある。
次に言っても聞かないようだったら、本は無理やりにでも奪って帰ろう。それから何かあるようであれば元親くんを盾にすればいい。そんなことを思い立ち、若干募ってきた苛々を抑えながら私は口を開いた。

「あの、そこ退いてくれませんか。早く帰りたいし、その本の続きだって読みたいんですよ。だいたい、私とあなたに接点なんて何もないのにどうしてここにいるんですか」

いい迷惑です、という言葉は流石に飲み込んだ。初対面とはいえ失礼すぎる。

「……」

毛利くんはしばらくの間黙って本を読んでいたが、やがてゆっくりと視線を本から私へと移動させた。鋭い視線に思わずひるんでしまう。

「……そんなに理由が知りたいか」

怒気を含んだような、少し震えた声に言葉が詰まる。理由とは、さっきの私の言葉に対してだろう。
毛利くんは本に栞を挟むと、それを机の上に置く。妙に目を引く動作だった。それを目で追っていて本以外何も見えなくなっていた、その時。

「……!」

ガタン、と机と体がぶつかり合う音が教室に響く。
しかし私はそれどころではなかった。

「……っ、」

え、うそ、なんで。それしか頭に浮かばない。

間近に毛利くんの整ったお顔があって、唇には暖かい感触がある。
――ってちょっと待て。私、毛利くんに何されてるんだ。

「……っ」

下唇を舐めてからゆっくりと唇を離した毛利くんは、未だ近距離で私の目と鼻の先にいる。毛利くんの吐く息が熱い。

「……これで、我が貴様のところにいる理由になったか」

それだけ言って、毛利くんは行ってしまった。彼がいなくなったのを見送ってから、途端に腰が抜けそうになり机に手をつく。
心臓が痛いしうるさい。顔どころか体が熱い。

――『これで、我が貴様のところにいる理由になったか』
それはつまり、そういうことだろうか。え、だって毛利くんと私には接点なんて何もなくて、え?どういうこと。

「うあ……信じらんない」

そう呟いて、また体が火照るのを感じる。
本の栞は、私が読んでいたところよりもっと先に進んでいた。



(111031)
ヒロインはアニキと友達で、彼女を好きな毛利くんはそれが気に食わなくて、っていう裏設定があった。本当に裏設定になってしまった。

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