いろいろ | ナノ



「おーい、こっち来いってば」

そう言って彼、エースは両手を広げた。目的は目の前にどっかりと座っている白ひげではなく、その後ろ。白ひげの後ろで身を小さくしてこちらを窺う少女だった。

人見知りの激しい少女はまだ17かそこら。白ひげの話によれば、先日停泊した島で見つけたのだという。色街に売られそうになったところを引き取ったらしいが、如何せん人見知りが激しい。
マルコやビスタたちとは既に打ち解けたのだが、どうしてもエースにだけは距離を置いていた。それがエースは気に食わない。マルコや白ひげと仲良く戯れるのを見ればなおさらだった。
一向に反応を見せない少女にエースが唇を尖らせる。

「くそ、なんでおれだけ……」
「そんな怖い顔をするんじゃねぇ。それ、もっとびくついてやがる」
「だってオヤジ!」

少女は白ひげの後ろでじっとこちらを見ている。白い肌に色素の薄い髪の毛が、日の光に反射してさらに眩しく見えた。
髪と同じ色の瞳がぱちぱちとまばたいて、やがて白ひげの背に隠れる。それを見て頬を膨らませれば、愉快そうに白ひげが笑った。

「なー、いつになったら出てきてくれるんだよ!」
「……」
「グラララ、そう焦るんじゃねェ。怖ェぞ」
「ちくしょー……」

ぎり、と歯ぎしりしたところで、ようやく少女が口を開いた。何事かと耳をすますと、少女の控えめな声がかすかに鼓膜を揺らす。

「あ、熱い、から……」
「は?」
「そうか、確かお前は北の海の生まれだったなァ!グラララ、熱いのは苦手か」

こくんと頷いてみせた少女にエースはがっくりとうなだれる。これはもう自然の摂理と同じくらい仕方のないことだ。今さらどうすることもできない。
子供のように頬を膨らませていじけるエースを、白ひげは盛大に笑う。少女は影からエースを覗いていた。それを見て白ひげは、にやりと口角を上げて酒を口に含んだ。

「なァに、おれの娘だ。妹だと思って気軽に接してやれ」
「接するもなにも、こんなんじゃそれ以前の問題じゃねぇか……」
「グラララ……よく見やがれアホンダラ。本当に距離置きたいやつがそんなにお前を見つめると思うか?」

え、と少女を見る。目を合わせた少女はびくんと肩を震わせて白ひげの影に隠れた。そしてしばらくすると、また顔を出す。

「なあ、友達になろうぜ。俺はエースってんだ」
「……エース」
「そう!」
「エース……」
「へへっ、よろしくな」

そう言ってにっかりと少女に笑ってみせると、少女もぎこちなく笑い返す。
するとエースは少女に手を差し出した。再び驚いて引っ込む少女に、エースは声をかける。できるだけ優しく、暖かく。

「握手しようぜ!友達のしるし、家族のしるし」
「……」

エースと彼の手を何度も見比べ、最後に白ひげを見やった少女はゆっくりとその白い腕を伸ばしてきた。エースと少女の距離がだんだんと縮まり、やがてそっと互いに触れる。
エースの顔がほころんだのもつかの間。彼女の手は熱いものにでも触れたかのようにすごい勢いで引っ込んでしまった。それを見てまた大笑いする白ひげと、ぐったりと落ち込むエース。

つられて後ろでくすくすと笑う少女を目の端に捉えた白ひげは、新しくできた大事な娘がこの末息子に慣れるまでそう長くはかからないだろうなと、酒を飲みながらそうひとりごちた。






(110317)

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