いろいろ | ナノ



ふらふらと廊下を歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿のお小さい方を発見した。その途端私は勢いよく駆け出す。これはもう条件反射と言ってもいい。

「へいちょーうごっ!!」

足音をたてず彼に近づき、両腕を広げ抱きしめようとした瞬間、彼から振り向きざまに回し蹴りを喰らった。さすが兵長、見事で素晴らしい蹴りでした。
回し蹴りを喰らい床に叩きつけられる。全身が痛い。特に蹴られた首が一番痛い。あの人私の意識を落とそうとしてた。私に関わると面倒だからとかいう理由で絶対気絶させる気だった。

全身に広がるとてつもない痛みで動けない。そんな私を、兵長が呆れたような、うんざりしたような面持ちで見下ろしていた。

「何か用かよクソ女……」
「たまたま兵長を見かけたので……。というかよく気づきましたね。足音と気配、完全に消してたのに」
「悪寒だ。つーかなんでピンピンしてんだよ」

落とすつもりで思い切りやったんだが、という兵長の言葉でやはり私の予想はあってたのだと確信する。伊達に何年も兵長を襲っ……構っていたわけじゃない。
気絶しなかったことが腹立たしいのか、兵長は不機嫌そうに腕を組み、虫けらを見るような目つきで私を見下ろしていた。

「毎回毎回ご苦労だな。そんなに死にてェか」
「兵長を後ろから抱きしめるまでは死ぬわけにはいきません!」
「キモいんだけど。すげーキモいんだけど」
「兵長、いつもとキャラが違います」

どん引きされた。けど本当に私は兵長を後ろから優しく、それこそ包容力のある男のように抱きしめるまでは死ねない。ちょうど私と彼との身長差が私の理想の差で、まあ普通は逆なんだけど、とにかく兵長を一目見た瞬間これだ!と感じたのだ。
それから猛アタックを繰り返しているのだが、兵長からはストーカー扱いされ鬱陶しがられている。でもめげない。気づけばこの攻防は、壁外調査のときを除けば日常茶飯事と化していた。はじめこそ笑って見ていたみんなも、もはや相手にすることすらなくなっていた。馴染みすぎだろ。

「大人しく抱きしめられてくださいよ」
「巨人共のエサになる前に俺が殺ってやろうか?」
「じゃあ段差使いましょう段差!ちょうどいい段差を探して、兵長が私を抱きしめればいいんですよ!」
「キモいんだけど。すげーキモいんだけど」
「それさっき聞きました」

全く乗り気ではない兵長に頬を膨らませてみせる。不快だと舌打ちをされた。ちょっと悲しい。

「そんなこと言わないでくださいよ……キスしますよ」
「……」

えっ、なんでそこで固まるんですか兵長。顔引きつってますけど。そんなに私が嫌ですかそうですか。まあ私はめげないけどな。
とりあえずもう相手にもされないだろうし身体も痛いから今日は帰ろう。久しぶりに兵長と会話できたし。

「今日のところは帰ります。ちょっと身体があちこち痛いので手を貸してくれませんかね」
「……断る」
「いや、あの、そんな警戒しなくても……。どさくさに紛れて、とかないんで。立てないんですよね、頭がふらふらして。立ったら自力で帰るので手伝っていただけると嬉しいです」

たっぷり時間を置いて私が何もしないと分かったのか、私に兵長は小さくため息をつくとわざわざ膝を折り、手を差し伸べてくれた。

「、ぷっ!」

かと思ったら思い切り下から顎を掴まれた。びっくりする私を見て「不細工な面だな」と意地悪そうに笑う。……くそう、私が動けないことをいいことに、仕返しをするつもりだな。油断した。
しかし、反論しようとした私の口は、彼が私のこめかみに唇を落としたことによって開いたまま固まってしまった。

「……」
「これで満足か」
「あ、えっ、はい……」

うまく状況を把握できず、顔を真っ赤にしてただ呆然と答える。そんな私を見てにやりと笑った兵長は、今度こそ乱暴に私の唇に噛みついたのだった。



ならずもののかみさま


(130921)
何がしたかったのかよくわからない

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