いろいろ | ナノ



放課後。橙の空が辺りを照らしている。職員室に呼び出された友人を待ちながら、私は2階の窓からぼんやりと外を眺めていた。

「――あ」

ぽつりとこぼして、私は窓の桟から軽く身を乗り出す。視線の先には、私が密かに好意を寄せているポートガスくんがいた。中庭で何人かの友達と遊んでいるポートガスくんは、眩しいくらいの笑顔を振り撒いている。

……いい、なあ。ポートガスくんの友達は。ため息をついてそうひとりごちる。

私が彼のことを気になり始めたのは、確か、そう。入学してすぐのことだ。
私が落としたキーホルダーを拾って、届けてくれた。それだけだ。でも、もう落とすなよと笑った彼の笑顔が忘れられず、廊下ですれ違う度に目で追って、気づいたら好きになっていた。
けどポートガスくんは私のことなんて忘れるだろうし、きっと卒業するまでこの状況は変わらない。でも、それでいいのだ。淡い恋の秘密は、私が死ぬまで秘密のまま。

でも、せめて、少しだけ。

「おーい、ポートガスくん」

囁くようにそう呼んでみる。私にしか聞こえないような声だし、ここは2階で、ポートガスくんのいる中庭までは遠いから聞こえるはずもない。
それを良いことに、私はぽつぽつと続ける。

「私のこと知らないだろうけど、私、……前からポートガスくんのこと好きだったよ」

聞こえていないはずなのに、なんだか無性に恥ずかしくなってきた。火照った頬を押さえながら中庭を見ると、ポートガスくんはぼうっとグラウンドの時計台を見ている。そうしてはっとしたように荷物を掴んで行ってしまった。用事か何かあったのだろう。そういえば、廊下で放課後に約束があると友達らしき人と話していた。ていうか私ストーカーみたいだ。気持ち悪い。
うわあああ、と頭を抱えていると、後ろでドアの開く音が聞こえた。友人が帰ってきたようだ。

「何やってたの?随分――」

遅かったけど、という続きは飲み込んだ。友人だと思って振り返ったその先には、さっきまで中庭にいたはずのポートガスくんがいる。一瞬ぽかんとして、次の瞬間にはさっと顔に朱が昇る。なんで、と呟くと、ポートガスくんは焦れったそうに頭を掻いた。

「お前なあ!なんで本人の前で言わねえんだよ!」
「え?な、何を……」
「あああちくしょう!」

そう叫んでポートガスくんは地団駄を踏む。よく分からなかったけど一応謝ってみた。すると今度は焦ったように違うんだ、と繰り返す。全くわけが分からない。よく見ると、ポートガスくんの頬はほんのりと赤い。一体どうしたんだろうと眉を潜めると、ポートガスくんが口を開いた。

「さっきのあれは、せめて本人の前で言ってくれ」
「あれって、まさか……」

さあっと血の気が引いていくような気がした。だってまさかそんな。聞こえてただなんて。私だけの秘密が、私の告白が、バレたなんて。しかも、本人に。
今度は体が熱を持ったように熱く感じる。何も言えずにただ口をぱくぱくしていると、ポートガスくんは続ける。

「なあ、俺のこと、ちゃんと名前で呼べよ。ポートガスくんなんて他人行儀にならねえでさ」
「え……」

なんでそんなことまで知ってるの!なんて言えなかった。ポートガスくんはにっこりと眩しい笑顔を私に向ける。

「お前のことならちゃんと知ってるぜ。なんたって惚れた女なんだからよ」

絶句した。思わず気絶しそうになった。石よろしく固まっていると、ポートガスくんが私の名前を呼んだ。……名前まで知っていたなんて。

「なまえ」
「あ、えと……」
「おれ、なまえが好きだ」

血が逆流してるんじゃないかってくらい体が熱くなる。そのせいでか、頭もくらくらしてきた。だから、あ、危ないなって思った瞬間にはそのまま意識を手放してしまったのだった。



(130915)
ずいぶん前に書いた恥ずかしい産物

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