クレイジー・ハイジンクス | ナノ



地元を離れちゃんとした仕事にも就かずふらふらとしていた私は久しぶりに地元に戻った。我が故郷は全く風変わりしておらず、懐かしさが込み上げてきた。家に帰ると母がいつもの笑顔で出迎えてくれる。お茶を出されてのんびりしていると、途端に母が口を開いた。正直、あぁ、きたなと予感はしていたが。

「平田さんの息子さんがね、ちょうどアンタと年が近いのよ」
「私あの人きらい。小学校のころに髪の毛引っ張ってきたから、すんごい力で」
「きっと照れ隠しよ〜。この間お話したら、アンタのこと気にかけてたもの」

その言葉に私は思いきり顔をしかめてみせた。あの男が私を?冗談きつい。私はあのせいで男の子がトラウマになりかけたというのに。髪の毛を引っ張られたおかげで背中から地面へと倒れ全身打撲した時のあいつのほくそ笑んだ顔。あの男マジでいつか殴ってやる。

「でもアンタもそろそろいい年だし……」
「まだ若いですけど」
「早々に結婚して戻ってきてくれると、お母さんとしては気が楽なのよねえ」
「言っとくけど年老いた両親の面倒なんか看んぞ」
「それなら平気よ〜、お兄ちゃんのお嫁さんが看てくれるから」
「結局人任せか」
「それに最近チカちゃんも家に男の子をあげるようになったんだから」
「!」

チカちゃんとは隣近所に住む高校生の女の子だ。私が妹のように可愛がった子である。人見知りでシャイな彼女が、まさか男の子を家にあげるなど……いや、実は女の子ですみたいな設定……あるわけない。なんてことだ。
私は頭を抱えて唸り出した。ぶっちゃけチカちゃんがまだなら自分も大丈夫だろうと思っていた。奥手でシャイの中のシャイなチカちゃんに彼氏ができないなら、まだ自分は余裕だと。なんなら近くのバーで一杯ひっかけながらナンパできるぜみたいな勢いでいた。迂闊だった。彼女にはシャイの中に秘めたる武器を持っていたのだ。その名も“なんだコイツ……放っておけねえ……守ってやりたくなるんだけど”感情。ちくしょう!どうやったら私もそんな技が使えるんだ!たった二日でゲームのラスボスを倒せるほどの実力を持った私が!たったそれだけのことができないなんて!

あああ……と打ちひしがれている私などそっちのけで、母はそのチカちゃんについて語り始める。もう止めてくれ。母は今の話題こそが私の自信と気分をへこませていることに気づいていないのだろうか。――いや、気づいていないからこんな話ができるのだということは今に始まったことではない。
なんかもうどうでもよくなってきた。チカちゃん?結婚?知ったことか!
私はふらりと立ち上がると、母の制止の言葉も聞かずに家を出た。家を出てすぐ、声を上げて走り出す。きっと私は今頃、周りから発狂した不審者として見られているのだろう。そういえばどかの本に、発狂した主人公が虎になってどうのこうのという本があった気がする。私も虎になるのだろうか。だがどうでもいい。私はもうここには帰らないからだ。いま決めた。なんかもうどうにでもなればいい。


(101113)

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