クレイジー・ハイジンクス | ナノ



女将さんから3日間の夏休みをもらった。実家に帰っても良かったのだが、どうせ自転車で数十分という場所だし何より暑いし、ということで今日は旅館でのんびり過ごすことにした。
そうと決まればさっそく高杉さんのところに行こう!と歩を進める。

「あっつー。高杉さーん、遊びましょー」

うだるような夏、暑さでろくに元気よく声をかける余裕もなく気怠げに襖を開けた。するとそこには、いつものように高杉さんとおまけのまた子さんがいて、……なんかカラフルなものが彼らの周りを囲っていた。

「おー、ゆきじゃないスか」
「こんちはー。ねえ、それ何ですか?」
「これ?見ての通りかき氷っスよ!」

あまりに暑いんで晋助さまにも涼んでもらおうと、と笑うまた子さんの手にはかき氷。その近くにいるふてくされたような高杉さんの手にもかき氷。そして二人の周りには大量のかき氷シロップ。夏色全開だった。

「いいなあかき氷!私も混ぜて下さいよ!」
「別にいいっスけど、氷は自分で削るっスよ」
「合点承知!」

ほい、とまた子さんに渡されたかき氷機。既に使いかけの氷の塊が機械にセットされていたので、皿を用意してハンドルを回す。シャリシャリと音がして、削られた氷が皿に落ちてきた。たまに氷の欠片が手について、それだけで涼しい。
あらかた削ると、今度はシロップ選びに取りかかる。たくさんあるシロップの中から、一番涼しげな色、ということでブルーハワイとかいうやつにした。これでもかと削った氷にシロップをかけると、ほのかに甘い匂いが鼻をかすめた。

「いただきまーす」

スプーンを手にしてさっそく氷の山をほぐしていく。ぱくりと一口食べると、ひんやりとした氷と人工的な甘さが口に広がった。

「うまー」

まさに夏だ。
かき氷に舌鼓を打っている私の隣ではまた子さんが高杉さんのために甲斐甲斐しくかき氷を作っている。高杉さんは興味なさそうにその様子を眺めていて、二人の温度差やべえなと思った。

「ていうか高杉さんなんでそんなにつまらなさそうにしてるんですか」
「あ?くだらねェだろ」
「晋助さま、できたっス!レモン味!」
「に……似合わ、」
「あん?」
「いや別に。かき氷まじ美味いっす」
「まだおかわりたくさんあるんで言って下さいね晋助さま!」

あの雰囲気でレモン味のかき氷とか、似合わないにもほどがあるだろう。
高杉さんにご奉仕できている喜びを隠そうともしないまた子さんは、傍目から見ても幸せそうだった。恋は盲目とはよく言ったものだ。

しゃくしゃくとかき氷の山を崩しては口に運んでいく。やっぱ夏だねー、かき氷最高だねーとまた子さんと談笑している隣で、高杉さんはかき氷にほとんど手をつけていなかった。手つかずのかき氷は器にたくさんの雫をつけて溶けだしている。もったいない。

「せっかくまた子さんが作ってくれたのにー、また子さん悲しみますよう」
「その語尾伸ばすのやめろ気持ち悪ィ」
「いいじゃないですかレモン味。爽やかですよ」
「馬鹿にしてんだろ」
「そんなことないですって。私は高杉さんにレモン味のかき氷、ありだと思いますよ。高杉さんの凶悪そうな顔とレモン色のポップな色合いが見事にミスマッチされてて、なかなか面白……素敵です」
「ちょっと表出ろクソ女」

皿を置いた高杉さんが青筋を浮かべて刀を抜く。咄嗟に近くにいたまた子さんを盾にすると、彼女はヒィィィと悲鳴を上げて降参のポーズをとった。

「晋助さま、おおお落ち着くっス!ゆきに悪気はあっても私は関係ないと思うっスまじで!」
「かき氷溶けちゃうぞー早く食べないと!そして黄色に変色したベロを見せて下さいよ面白いから」
「あばよ」
「ヒィィィ!私っス晋助さまゆきは後ろ!私関係ないっスまだ死にたくないんス晋助さまお気を確かにィィィ」

また子さんの悲鳴に近い哀願と、畳に刃物の刺さる音がしたのはほぼ同時だった。また子さんはガチで泣きべそをかいて高杉さんは割と本気で刀を構えていて、あっこれ死ぬって直感でそう思った。
そこから私と高杉さんの、命をかけた土下座の謝罪とガチの制裁が始まる。
そばに置いていた全員のかき氷はほとんど溶けていて、もちろん自分のことに必死な私たちはそれに気づくわけもない。

遠くで蝉の鳴き声がする。少し蒸し暑い部屋のなかで、私たちはひとときの夏を満喫していた。



さめざめと溢れる


(120822)
真夏のかき氷の美味さは異常

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -