クレイジー・ハイジンクス | ナノ



「あけおめーっす!」

女将さんからおすそ分けしてもらったおせち料理を手に、襖を勢い良く開けた。その先には、

「……なにやってんだお前」
「すいませんでした」

高杉さんが年越しそば食ってました。


見間違いかと思って襖を閉める。だっていつもみたいに優雅に煙管を吹かしてるもんだと思ってた高杉さんが年越しそば食ってんだもん。高杉さんが年越しそばって。似合わねー。
もう一度襖を開けると、やっぱりそこにはそばを片手に私を睨んでくる高杉さんがいました。いやー高杉さんほど年越しそばが似合わない人はいないわあ。

「お前失礼なこと考えてただろ」
「滅相もない。とりあえず寒いんで失礼しまーす」

部屋に入ると、こたつに入った。これ当然だけど高杉さんも入ってんだよね。もう全然似合わねーよ。肩を震わせてこたつにうずくまる。不審な目を寄越す高杉さんを尻目にその片手にあるそばを覗き込んだ。いい匂い。

「高杉さんも人の子ですもんね。そりゃあおそばも食べればこたつも入りますよ」
「……何が言いてェ」
「超絶似合わねー!!」
「そんなに斬られてェか」

お腹抱えて大爆笑したら、額に青筋浮かべた高杉さんが刀を構えたので慌てて謝った。
ヒィヒィ笑いながら謝る私を見た高杉さんは刀を直しながら重いため息を吐く。もう大晦日だというのになんだか疲れてらっしゃる。

「高杉さんがこたつにそばって似合わ……珍しいですねー」
「また似合わねえって言おうとしたろ。来島が勝手にやったんだよ」

どうやら来島さんが「今年は晋助様のために気持ち良く来年を迎えられるものを用意したっス!」とか言いながらこたつを持ってきたらしい。ついでにそばも。高杉さんも高杉さんで断るとかすればいいのに。面倒だ面倒だと言いながらも、実はこういうものが好きなんじゃないのこのツンデレめ!
そんなことを考えつつ笑いをこらえていると、高杉さんが私の持ってきたおせち入りの重箱に手を伸ばした。

「わわわ、まだ年明けてないから食べちゃだめですよ」
「お前じゃあるめェし食わねェよ」
「どういう意味ですか」
「そういう意味だ」
「ああそういうことね殴るぞコルァ」

とか言い合いながらも開けられる重箱。うおお、かなり美味しそう。今すぐ食べたい。

「俺に食うなってお前が言ったんだから食うなよ。つーかさっきお前あけおめって言ったろ。まだ年明けてねーよ」
「自分の言ったことにはちゃんと責任を持つ人間なので食べませんー。気分が高まったんですよフライングですフライング」
「嘘つけ。フライングにもほどがあるだろ」
「あっ、除夜の鐘」
「無視か」

どこからか聞こえる除夜の鐘に、一瞬にして部屋が静まり返る。いつも思うが、こんなんで本当に煩悩が消えるんだろうか。特に高杉さんは消えないだろうなあ。私に煩悩の塊だとか言うわりには高杉さんも煩悩だらけだもんなあ。
腕時計を見ると、あと少しで年が明ける。ちらりと高杉さんを見ると、うつむいたまま動かなかった。きっと今年あったことでも振り返ってるんだろうなあ。私は何もやってない気がする。ただのんびり過ごしてただけだ。それでものんびりと過ごした時間が充実できたと思えるのは、隣に高杉さんがいたからだと思いたい。

かちり。時計の針がちょうど12を差した。年が明けたのだ。
静かな中でお互いに何を言うでもなく目を合わせて、ちょっと照れくさくてはにかむ。

「あけましておめでとうございます」
「おう」
「今年もよろしくお願いします」
「……ん」

ちょっと間を置いて返された返事に笑みがこぼれる。
年が明けて初めに会えるのが高杉さんで良かったなあとこぼすと、高杉さんは一瞬だけ驚いたような顔をして、少しだけ笑った。つられて私も笑う。こういうの、幸せっていうんだよなあ。

それから私たちは女将さんにもらったおせちを食べた。こたつもそばも似合わない高杉さんは、やっぱりおせちも似合ってなかった。そんなことで笑えるのってかなり幸せなことだ。
今年はいいことありそうだなあと、おせちを食べながら近くて遠い未来の今年に思いを馳せた。



酔狂なことだ


(111231)
来年もこんな麒麟児をよろしくお願いしまーす!

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