クレイジー・ハイジンクス | ナノ



あれから一週間と少しが経った。高杉さんは相変わらず明後日の方向を見つめている。ここまでくると流石に心配する。一日に何度か頻繁に高杉さんの部屋を訪れていたが、とうとう三日前、高杉さんに勘当された。つまり、しばらく部屋に来るなと。
しかもそれを暗い表情して言うものだから、言い返す気力もなくしてしまった。いつものニヒルな笑みを最近見ていない。本当にあの人は大丈夫なのだろうか。

「はあ……」

大量の洗濯物を抱えながら重いため息をつく。この間やってきたお客さんの使ったタオルやら浴衣やら布団のシーツを洗濯していたのだが、高杉さんが心配で仕方ない。別に特別な感情があるわけではないが、いつもと違うとやっぱり気になってしまう。

「どうしたもんか……」

ふう、と息をついてから奥の部屋へ向かう。私が向かったのはとある客間で、部屋では既に梅木さんが忙しなく働いていた。
最近は頻繁に客が来るようになって、私たちも働くようになった。商売上がったりですなあ!

「あ、ゆきちゃん!」
「お待たせしましたー」
「その浴衣そっちに移しちゃって」
「はーい……どっこいしょ」
「どっこいしょって……」

呆れたようにため息をつく梅木さんは、ふと何かを思い出したように手を打った。
私もなんだろうかと小首を傾げる。こちらを向いた梅木さんは、何か言いたげな表情で私を見ている。

「あの……梅木さん……?」
「え?――あ、ああ、そうだゆきちゃん、女将さん見てない?」
「女将さんですか?確か今日はずっと執務に専念するって言ってましたけど」
「そう。じゃあ、ちょっと女将さん呼んできてくれる?お話があるからって」
「はーい」

手元の荷物を片づけてから女将さんを呼びに部屋を出る。
女将さんの部屋は、私たちが寝泊まりしている部屋の少し手前にある。母屋の奥、離れの入り口にあるようなところだ。鼻歌を歌いながら女将さんの部屋に向かう。
その時ふと、高杉さんの浮かない顔が思い浮かんだ。あの人は大丈夫だろうかと、女将さんの部屋を通り過ぎてあの襖の前までやって来る。
襖に手をかけて、そこで動きが止まる。襖を開けたいが、高杉さんに来るなと言われている手前、開けづらい。怒られたりしないだろうか。

「……むう」

ちょっと、様子をみるだけ。ちらっと見たらすぐに帰れば問題はないだろう。高杉さんが落ち込んでるのが悪いんだもんね!
そう心の中で決めつけ、私はほんの少しだけ襖を開ける。その先にはいつものように高杉さんがいて、煙管を吹かしている。

いると思ったのに。

「え……?」

思わず襖を全開にする。あまりのことに絶句する私をよそに、その部屋は薄暗いままそこにあった。
視界の開けたそこは、一度見たことのある、埃っぽくはない息子の部屋だった。


(110321)

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